「打錠とは」【第3回】

2025/06/20 製剤

打錠障害とその対策および打錠シミュレータについて解説する

はじめに
 打錠とは【第2回】では、錠剤に用いられる添加剤について解説した。プレミックス・コプロセス型の添加剤は、すべて公定書に収載されている添加剤から構成されている場合、国内では新添加剤として取り扱われるが現状であるが、海外では既知のものとして取り扱いが可能である。このことから、海外の原料メーカーでは、プレミックス・コプロセス型の添加剤の開発が盛んに行なわれている1)
 グランフィラーDは、D-マンニトール、結晶セルロース、カルメロース、クロスポビドンから構成された造粒物で、「医薬品添加物規格(薬添規)2018」に収載されている。グランフィラーDを主成分とするプラセボOD錠では、250mg、8mmφの平錠の場合、打錠圧(10kN)で約100Nの硬度と20秒程度の崩壊時間を両立した2)
 次にSmartEXⓇは、D-マンニトール、L-HPC、PVAの3成分から成るOD錠直打用賦形剤で「薬添規」には「薬添規2018」に収載されている。SmartEXⓇのプラセボ錠は、低打錠圧(10kN)でも十分な成形性(錠剤硬度:130~150N)を示し、崩壊性(崩壊時間:40~50秒)も良好であった3)
 【第3回】は、打錠障害(キャッピング、スティッキング)とその対策および打錠シミュレータ(圧縮成形プロファイル)について解説する。

1.打錠障害とその対策4)
 主な打錠障害としては、キャッピング、ラミネーション、スティッキング、チッピング、ピッキング、バインディング、またはダイフリクションなどがある。図1に主な打錠障害を示した。

図1 主な打錠障害の模式図

図1は、小波盛佳ら監修「粉体・ナノ粒子の創製と製造・処理技術」,テクノシステム(2014)、湯淺宏著、第5章 単位操作の選定・設計とトラブル処理、第19節 粉体の圧縮成形とそれに伴うトラブル対応の図1 種々の打錠障害(407P)を転載した。

 打錠においては、圧縮操作が連続的で、しかも高速でおこなわれる。このような条件化では錠剤内部に応力や密度に分布が生じ、内部構造は決して均一なものにならない。このことが、打錠障害(キャッピング、スティッキング)や品質特性異常(硬度低下、崩壊遅延)などを惹き起こす主な原因なっていると考えられる4)

2.キャッピング5)、6)
 キャッピングは、打錠機で錠剤を打錠した後に、臼から放出する過程、もしくは放出後に錠剤が帽子状に剥離する打錠障害である。錠剤でキャッピングが発生すると、外観異常となるだけではなく、錠剤の一部欠損によって薬物の含有量を保証することが出来なくなる。通常、キャッピングが発生したロットでは、内部にキャッピング破断面を有する錠剤が正常品として混在している場合が多く、キャッピング錠を選別除去しても、その後にコーティングや小分け工程、さらには流通過程での衝撃などにより錠剤がその破断面で破損し、キャッピング錠となることが多く、しばしば致命的な事故として扱われることがある。キャッピングを防止するには、錠剤処方、原料の粒子径、造粒条件についての最適化を行う。そして、①打錠圧力を出来るだけ抑えて臼壁に発生する応力を低くする。そこで、キャッピングが発生した場合には打錠圧力を弱める。②圧縮時に出来るだけ応力緩和させて、錠剤硬度を高くすると共に、臼壁残留応力を緩和させる。すなわち、圧縮時間を長くするために、打錠機の回転数を落とす。③錠剤の放出時に錠剤と臼壁面の摩擦を小さくする。そこで、打錠圧力を下げる。④内壁が磨耗して段差がつき、錠剤の放出を阻害するような臼は直ちに交換する。また、錠剤の形状を設計する時に、錠剤面をR面とすると錠剤内部の圧力分布が不均一となる。さらに、錠剤側面積が小さくなるので、狭い面積で臼壁残留応力を受けることになりキャッピングが促進される5)。従って、キャッピングを発生しやすい組成の錠剤ではR(曲率半径)を必要以上に小さくすることは避けるべきである6)

3.スティッキング6)
 スティッキングは、圧縮成形後に錠剤の表面の一部が杵の方へ移り、錠剤が窪みや曇り、刻印の欠損などが発生する現象である。スティッキングは外観品質に大きな影響を及ぼす打錠障害であるが、キャッピングほど致命的なトラブルと捉えられないことも多い。しかしながら、社章や製品コードなどの刻印が判別できないスティッキングは致命的な欠陥である。また、軽度のスティッキングは錠剤外観検査機での検出が困難であり、打錠機の無人化が実施される咋今において、その及ぼす影響は有人打錠が主流であった時代よりも重大である。このように、軽度のスティッキングを錠剤検査機で検出することは困難であることから、最近では、杵の表面をカメラで検査し、ごく初期の段階でスティッキングを自動検出する技術が実用化されている。

 

 

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執筆者について

阪本 光男

経歴

▼経歴
秋山錠剤株式会社 品質保証部 製剤開発課 顧問
エーザイ株式会社 製剤研究室に入社、ジェネリックメーカー、一般薬メーカーの製剤研究室室長を経て、現職

▼専門および得意な分野・研究
口腔内崩壊錠の開発研究

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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