ジェネリック医薬品の四方山話【第7回】

2017/11/17 その他

~バイオウエーバー~

 米国のFDA(医薬食品局)では、ジェネリック医薬品に対する品質に対するクレームを常時受け付けていて、そのチェックが行われている。こうした例の中で、製品回収にまで進んだ事例を見ていこう。
 2007年に、FDAは一般名「塩酸ブプロピオン」を含む抗うつ薬で、グラクソ・スミスクライン(GSK)の「ウェルブトリンXL300mg」(徐放錠)を、テバのジェネリック医薬品「ブテプリオンXL300mg」に使用を切り替えた患者が、効果や副作用に関して好ましくない影響を経験したという市販後報告85件を受け取った。これらのうち78件は、先発からジェネリック医薬品に切り替えた後、うつ症状が悪化し副作用も出たという報告である。そして治療薬をもとの先発品に戻したところ、患者の半数以上はうつ症状の改善や副作用の軽減がみられたという。
 テバのジェネリック医薬品「ブテプリオンXL300mg」は2006年、FDAによって承認された。承認の根拠は「ブテプリオンXL150mg」が、先発の「ブテプリオンXL150mg」との比較で有効成分の塩酸ブプロピオンの血漿濃度測定による吸収速度と量に有意な差がみられなかったことにある。ただ300mgという高用量ではてんかん発作の危険があるので、健康人ボランテイアによる血液濃度測定による生物学的同等性試験は行われていなかった。
 つまり低用量における生物学的同等性試験をクリアしていることを理由に高用量の生物学的同等性試験を免除した例である。こうした生物学的同等性試験免除を「バイオウエーバー」と呼ぶ。こうしたバイオウエーバーは健康なボランテイア保護のため認められていることであった。つまり後発のブテプリオンXL150mgと300mgの間では薬物動態プロフィルに差があるとは考えられないということを前提に、高用量の300mgをバイオウエーバーで承認していたということだ。ではこのXL150mgの先発とジェネリック医薬品の血漿濃度・時間曲線を見てみよう。
 

(FDA資料:Review of Therapeutic Equivalence Generic Bupropion XL 300mg and Wellbutrin XL 300mg)

 この図表を見てまず気がつくのは、ジェネリック医薬品のブテプリオンXL150mgの最高血中濃度到達時間(Tmax)が、先発品のウェルブトリンXL150mgより2~3時間、早いということだ。ただ承認に当たってこのTmaxの時間差は承認要件には含まれていないので問題とはならない。承認要件の決め手は先発品とジェネリック医薬品の薬剤の最高血中濃度(Cmax)と時間的血漿濃度下面積(AUC)とが、両者の比較で90%信頼区間80%~125%内に収まっているということである。確かにこの両者は多少の差異はあるが、承認範囲に収まっていた。
 

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執筆者について

武藤 正樹

経歴 国際医療福祉大学大学院教授 医療経営管理分野責任者
1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年~1988年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長。1990年国立療養所村松病院副院長。1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。1995年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長・同大学大学院教授、2013年4月より国際医療福祉大学大学院教授(医療経営管理分野責任者)
政府委員としては、医療計画見直し等検討会座長(厚労省2010年~2011年)、中医協入院医療等の調査評価分科会会長(厚労省2012年~)、ジェネリック医薬品品質情報検討会委員(厚労省2008年~)
著書に「ジェネリック医薬品の新たなロードマップ」医学通信社2016年、「2025年へのカウントダウン~地域医療構想と地域包括ケアはこうなる!」(医学通信社2015年)など。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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