ジェネリック医薬品の四方山話【第1回】

2017/04/20 その他

 私がジェネリック医薬品に関心を持ったのは、今から18年も前の1998年のことだ。この年の前年、アジア通貨危機が東南アジアを襲った。この時、私はこの通貨危機がアジアの医薬品流通に与えた影響を調査するためにインドネシアに調査旅行に出かけた。
 アジア通貨危機は、米国のヘッジファンドの通貨空売りを引き金として始まった。通貨危機は、まず1997年7月のタイ通貨バーツの大暴落を招いた。この通貨大暴落は周辺国に一挙に広がった。インドネシアもその例外ではなく、インドネシア通貨のルピアの価値が大暴落した。このためお財布にルピア紙幣がぱんぱんに溢れていても、何も買えないという事態になった。
 その通貨危機がややおさまった1998年に先述したようにインドネシアに調査旅行に出かけた。目的はこの通貨危機が医薬品流通に与えたインパクトを調査するためだ。この調査旅行で、私はインドネシア政府のジェネリック医薬品への力の入れように目を見張った。インドネシアはそれ以前からジェネリック医薬品の国内製造と流通に力を入れていた。このためルピア大暴落の中で、医薬品輸入が支障を来したなか、なんとかジェネリック医薬品で国内の医薬品流通を維持したという経緯があった。
 当時、インドネシア政府は半官半民のジェネリック医薬品を製造する公社3社と流通公社を1社持ち、2億人の人口を抱える広大なインドネシア全土にジェネリック医薬品普及を強力に推し進めていた。
 当時のインドネシアの国民医薬品費は国民1人あたり年間、米ドル換算でたったの6ドルだった。この貴重な6ドルを有効に活用して全インドネシア国民に医薬品を持続的に供給することに力を注いでいた。これには安価なジェネリック医薬品が欠かせない。これを見て初めてジェネリック医薬品のパワーを実感した。通貨危機を乗り切ってインドネシアの国民の健康を守ったのもこのジェネリック医薬品があったからこそと思った。
 さて、もちろん日本とインドネシアでは全く医療事情が異なる。しかし貴重な医療費を無駄にせず大切に使うこと、そして全国民が医薬品の恩恵を等しく受けるために、ジェネリック医薬品が欠かせないという事情は、実は今の日本にも当てはまる。
 日本はこれから世界に類を見ない超高齢社会になる。2025年には私もその一員である団塊世代700万人が一挙に後期高齢者の仲間入りをする。そのとき医療費、年金、介護福祉費からなる社会保障経費はなんと150兆円を突破する。医療費だけでも50兆円という世界が到来する。中でも医薬品費の伸びは著しい。とくに最近は超高額ながん治療薬のオプジーボや肝炎治療薬のハーボニー、ソバルテイなどの高額医薬品が目白押しで市場に出てきている。このままでは国民皆保険の維持も困難だ。こうした中、安価なジェネリック医薬品の使用促進が待ったなしだ。

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執筆者について

武藤 正樹

経歴 国際医療福祉大学大学院教授 医療経営管理分野責任者
1949年神奈川県川崎市生まれ。1974年新潟大学医学部卒業、1978年新潟大学大学院医科研究科修了後、国立横浜病院にて外科医師として勤務。同病院在籍中1986年~1988年までニューヨーク州立大学家庭医療学科に留学。1988年厚生省関東信越地方医務局指導課長。1990年国立療養所村松病院副院長。1994年国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長。1995年国立長野病院副院長。2006年より国際医療福祉大学三田病院副院長・国際医療福祉総合研究所長・同大学大学院教授、2013年4月より国際医療福祉大学大学院教授(医療経営管理分野責任者)
政府委員としては、医療計画見直し等検討会座長(厚労省2010年~2011年)、中医協入院医療等の調査評価分科会会長(厚労省2012年~)、ジェネリック医薬品品質情報検討会委員(厚労省2008年~)
著書に「ジェネリック医薬品の新たなロードマップ」医学通信社2016年、「2025年へのカウントダウン~地域医療構想と地域包括ケアはこうなる!」(医学通信社2015年)など。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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