医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第43回】

生殖発生毒性


 今回から生殖発生毒性について、お話ししたいと思います。

 通知の基本的考え方に、「ISO 10993-1:2018及び対応するJIS T 0993-1の発行に伴い、表1の評価項目に生殖発生毒性を追加した。この評価の推奨される医療機器のカテゴリは存在しないが、例えば評価対象となる医療機器の原材料に生殖発生毒性や内分泌かく乱作用を有すると考えられる化学物質が含まれる場合には、評価が必要になる。」とあります。また、表1の考慮すべき評価項目の注記eに、「新規材料、生殖/発生毒性と関係の深い患者集団(例えば妊婦)に適用する医療機器、並びに構成材料が生殖器官に局所的に使用する可能性のある医療機器については、生殖/発生毒性の評価を考慮することが望ましい。」と記載されています。
 このように、何となく積極的に評価せよというよりも、ISO 10993-1に追加されてしまったので、場合によってはきちんと評価してくださいねというような、ちょっと引いた書きぶりに思えてしまうのは私だけでしょうか(ちなみにがん原性の記載も同様です)。
 上記のことをdecision treeにしてみるとこのようなところでしょう。
 


 まったくの新規材料については、毒性が未知であるため、評価せざるを得ません。例えば溶出する化学物質にステロイドホルモンとよく似た構造があると、内分泌かく乱作用があるかもしれないと考えられますし、また、類縁化学物質に内分泌かく乱作用が報告されている場合も慎重になった方がよいかと思います。
 最近では日本国内ではあまり大きな話題にはならなくなりましたが、上記の内分泌かく乱物質については、特に欧州では注目され続けています。例えばポリカーボネートのモノマーであるビスフェノールA(BPA)ですが、これは以下のような化学構造です。
 


 BPAは女性ホルモンレセプターに結合することで、女性ホルモン様の作用を示すことで問題になりました。女性ホルモンはいくつかの種類がありますが、E2と呼ばれるエストラジオールの化学構造は以下のようなものです。
 


 亀の子を重ねたようなエストラジオールが結合するレセプターにBPAが結合するのはにわかには信じがたいのですが、卵巣を除去したネズミにBPAを注射しますと、それまで卵巣からの女性ホルモン刺激がなくなったため強く萎縮していた子宮の細胞が分裂したり、子宮内腔に液が分泌されたりして、女性ホルモンを注射したときと同様に膨らみます。
 同じようなベンゼン環に水酸基やメチル基が結合したものに、ノニルフェノールやオクチルフェノールという物質があり、こちらも卵巣を除去したネズミに投与すると、子宮が膨らみます。
 


 オクチルフェノールのこの作用については、24年ほど前に日本毒性病理学会で発表し、会長賞をいただきました。副賞として当時はまだ珍しかったデジカメを頂戴したのはうれしかったのですが30万画素程度(ちなみにiPhone 14 proのカメラは4800万画素)のもので、フィルム写真と比べるとお世辞にもきれいと思える写真は撮れず、娘のおもちゃになってしまいました...。余計な話はさておき、この研究のきっかけとしては、ノニルフェノールにエストロジェン様作用があることが報告されていたので、よく似た化学構造のオクチルフェノールにもあるかもと思って調べたところ、同様の作用があったということで、後でもご紹介しますが他にもいろいろな研究を行いました。BPAもノニルフェノールもオクチルフェノールも、ベンゼン環に水酸基があり、一方にアルキル基が結合しているという構造が似ており、女性ホルモンレセプターには、このような構造が結合しやすいのかもしれません。

 

 

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