医薬品品質保証こぼれ話【第44回】

2021/08/20 品質システム

鍵は委託先製造所とのコミュニケーションの活性化。

現法下の委託製造に潜むリスクと対策

東和薬品は8月4日、セフェム系抗生物質製剤“セファレキシン複合顆粒500mg「トーワ」”の自主回収を発表しました。委託先製造所において製造販売承認書と製造実態との間に齟齬(混合・充填工程)が確認されたことが回収の理由とされています。またしても、“承認書と実態の齟齬”による医薬品の回収・安定供給に関わる問題が発生し、この種の問題の発生が日常的となっていることを改めて感じます。現在、医薬品の多くが“委託製造”により生産されていることから、この種の問題の多くが委託先の製造所で発生していると推察されますが、なぜ、委託先製造所においてこのような問題が後を絶たないのでしょうか? ちなみに、今回のセファレキシン製剤の回収問題も原因の根本にあるものは先の小林化工、日医工のケースと同じと考えられ、今回も後発医薬品大手の事案であることから重く受け止めるべきでしょう。

現在、日本における医薬品の生産において“委託製造”と称されているのは、“製造販売業者(以下、「製販」)”がGQP省令の下、GQP契約に基づいて“製造業者”に生産の“全工程を委託”する、いわゆる、“契約生産”であり、2005年以前の“製造業者が他の製造業者に製造委託”していたときと事情は異なります。以前は、“委託者が製造工程の一部を実施”することが委託製造の許可の要件であったことから、“包装工程など一部の工程の実施と出荷試験”は“委託者たる医薬品製造業者”が実施するのが常であり、これにより、委託者が、委託先で製造される医薬品の品質への責任意識を保持することが自然にできていたと考えられます。一方、現在の(2005年以降の)薬事品質保証体制下の委託製造はほとんどが“全工程委託”であり、市場への出荷試験も実質的に受託製造所で行われており、このことが“医薬品品質への責任感”という点において、少し疎かになる原因になっていないか懸念されるところです。つまり、委託者(製販)が受託者(製造業者)に“医薬品の製造と品質管理のすべてを任せる”、 半ば“丸投げ”するといった構図が、現在の製造委託の業務フローの中で自然に醸成され、このことが“品質への責任意識の希薄化”を招いているように感じられます。もし、こういった流れにあるとすれば、このことを自覚し、そこに対策のメスを入れることで状況の改善がみられるのではないでしょうか。

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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