医薬品設備建設における「オーナーのプロジェクトマネジメント2nd改訂版」【第3回】

第3回では引き続きプロジェクト全般に関する内容を記載する。個々に記載する内容は、オーナー側のプロジェクトマネジャーだけではなく、受注側のプロジェクトマネジャーにも当てはまるといえる。
5. プロジェクトマネジャーの役割と責務
オーナー側のプロジェクトマネジャー(以降はPMと表現する)の役割を誤解している場合が多い。例えば図5.1のようにオーナー側からコントラクターにプラント全体をランプサム[ⅰ]で発注したとする。全体を一括発注したので、全てコントラクター側のPMが全責任をもってプロジェクトマネジメントをしているので、オーナー側のPMは一切関与しないということがよくある。もちろん、発注契約の範囲内での責任はコントラクターにあるが、発注したとしても、全てのプロジェクトの総マネジメントはオーナー側のPMの重要な責務である。コントラクター側のPMをコントロールするのはオーナー側のPMである。もちろん、オーナー側のPMがコントラクター側のPMと同じことをマネジメントする必要はないし、同じ技術能力を持つ必要性もない。オーナー側のPMは、コントラクター側のPMから、必要な情報を得て、プロジェクト全体をコントロールするので、より上位のマネジメントが必要となる。
図5.1
一般的に、オーナー側のPMはコントラクターのPMよりプラント建設という面では技術的には劣るが、恐れることはない。コントラクターのPMからの報告、PMの活動状況、コントラクターなどから判断して
・コントラクターのPMの報告は正しいか、都合の良いことばかり
を報告していないか。
・コントラクターのPMの報告に不明瞭な点はないか 誤魔化しは
ないか
・コントラクターのPMの報告は理路整然としているか
・コントラクターの設計に問題はないか
・コントラクターの工事は図面や仕様書と異なっていないか
・コミッショニングやクオリフィケーションは、プロトコールと
異なったことをしていないか
等の観点から、それぞれの状況を注意深くチェックすることである。
さらに、オーナー側とコントラクター側はプロジェクトを完遂しようとする目的は同じであるが、その基にある考え方は逆のベクトルになっている。
例えば、ランプサムでコントラクターと契約したとする。コントラクターは契約金額が決まれば、できるだけコストを抑えるために、契約仕様書に記載の無い内容は、仕様をできるだけ落とそうとする。それは当然のことである。一方、オーナー側は少しでもより良い設備を望むものである。このようにして仕様を落としたことにより、医薬品設備としてのグレードに適さない場合がある。すなわち、GMP上の問題等が発生する場合がある。この場合、オーナー側のPMは、何故この仕様ではダメかを理路整然とコントラクターに説明する必要がある。もちろん、こういったことが発生しないように、契約仕様はできるだけ詳細に決定しておくことが肝要である。契約のベースとなる見積仕様書は、オーナー側から盛りだくさんの内容を含めて提出することを、特に私は推奨する。というのはコントラクターから提出された資料は見落としがちであるが、自ら提出する書類は記載漏れがあっても見落としは無いからである。そして、コントラクターから提出される契約仕様書の中には、オーナー側より提出された見積仕様書を優先する旨の記載を必ずいれておく。逆に、オーナー側から提出された膨大な資料に対し、コントラクター側が見落とす場合があるが、この場合、コスト追加は発生しない。しかし、スケジュールの後戻りが発生するため、その防止策としては、その後にコントラクターから提出される設計図書に対し、オーナーとしてのチェックが必要であるのは言うまでもない。
レインバース[ⅱ]で契約した場合も、コストのアッパーリミットを設けなければ、コントラクターは一つの設計解に対しいくつもの代替案を検討してくれる。その結果、設計工数は増えるばかりとなる。特に海外のエンジニアリング会社は、検討しなくても分かるようなことまで、あれこれと検討してくれる。したがって、コントラクターが余分な設計にまで手を出さないように、オーナー側のPMは明確にコントラクターに指示を出す必要がある。蛇足であるが、レインバース契約をするためには、オーナー側に適確なPMがいなければ、コストは膨れ上がる一方となってしまう。このような時には、オーナーの立場でマネジメントできるPMであれば、外部委託でも問題はない。
以上は、間違いやすい役割と責任のほんの一部だけを紹介したが、プロジェクトの範囲やプロジェクトのステージにもよるが、一般な建設プロジェクトでのPMの役割は
・プロジェクト実行計画の策定(予算、計画工期、仕様等を含む)
とオーナーまたは会社トップの承認取得
・プロジェクト体制の設立およびリソース管理
・オーナーまたは会社トップ、および関連部門への報告と調整
・プロジェクト成果の実現
・プロジェクト目標の達成(コスト、スケジュール、品質、
パフォーマンス等)
・プロジェクトエンジニアリング管理
・プロジェクトリスクの管理
・官庁許認可の対応
・コントラクター、サブコントラクター、ベンダー、サプライヤー
管理
・製造部門等へのプロジェクト引渡し
等である。
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