医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第18回】

2021/06/21 医療機器

医療機器の刺激性について解説をする。

刺激性

今回から刺激性についてお話します。
これでようやくすべての医療機器に考慮が求められる3種(細胞毒性、感作性、刺激性/皮内反応)の評価項目になります。

私たちの生活で、刺激というと、すぐに思い浮かぶのは何でしょうか。
・ピリ辛料理を食べて口の中がヒリヒリした。
・手荒れしたときに洗剤を使って洗ったらしみた。
・シャンプーが目に入って痛かった。
・酸性洗剤やカビ取りのアルカリ性洗剤を直接手で触れてヒリヒリ、ジンジンした。
・沸騰したやかんに触れて手指が真っ赤になった。
・マスクのひもがこすれて痛いと思ったら顔に赤い筋ができていた。
・普段使っていない会社のコンタクトレンズを着けたら目が真っ赤になって痛かった。
・ダイナマイトボディや筋肉ムキムキの人を見てドキドキした。

最後のドキドキは心理的な刺激で、ここで扱うものではありませんので、割愛させていただきますが、その他については、いずれも皮膚や眼、口腔粘膜に分布している知覚神経を刺激することにより、ヒリヒリしたり、ジンジンしたり、痛かったりという生体反応が生じるものです。これは、コンタクトレンズだけでなくさまざまな医療機器でも発生する可能性がある刺激性と同一の作用機序です。
若い方には、シャンプーは目にしみないよと仰る方もいらっしゃるかと思います。最近の日本のシャンプーは優秀で、目に入ってもあまり痛くありませんが、数十年も前、私が子供のときシャンプーはふつう目にしみるものでしたし、最近でも海外旅行に行って安宿に泊まったときに、備え付けられている香りの強いシャンプーを使うと、目にしみることがあります。
上で述べた刺激の原因には、大きく分けて、化学的なものと、物理的なものがあることがお分かりかと思います。ピリ辛料理、洗剤、シャンプーは、その中の成分が原因となっているだろうことが想像できますので、化学的な要因ですね。そして、沸騰したやかんやマスクの紐は熱や摩擦などの物理的な要因によるものでしょう。コンタクトレンズは、難しいところです。普段使っていない会社のレンズの形状が自分の目に合っていないのであれば物理的な要因でしょうけれど、溶出物などによる化学的要因の可能性も考えるべきです。
医療機器の刺激性は、物理的因子を評価するのではなく、化学的因子を評価しようとするものです。「いやいや、医療機器でもその表面形状によって、物理的刺激はあるだろうし、発熱する医療機器では、やけどなどの刺激もあり得るよ。」という意見があろうかと思います。ごもっともな意見です。粘着テープでも頑固に皮膚に接着してしまうと、無理に剥がすと皮膚が真っ赤になってしまうでしょう。動きの激しい部位に用いる機器では、摩擦による刺激もあるでしょうし、ヒーターが付いている機器ではやけどのリスクが伴います。ただ、摩擦や熱などの物理的刺激は、その医療機器や材質自体の属性ではありません。使用に際して生じる不具合のひとつになりますので、その使用方法を模擬した条件を用意してシミュレートして評価していくこととならざるを得ず、生物学的安全性評価の中というよりも、性能評価の中で考えていくべきことであろうかと思います。

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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