医薬品工場建設のノウハウ -プロジェクトの成功に向けて-【第4章-4】③

【第4章-4】③ プロジェクトのリスク管理について

4.1    プロジェクトのリスク管理について
4.1.1    リスク管理とリスクマネー
 プロジェクトには計画時に予見が困難な不確実性(リスク)が内在しており、プロジェクトの進捗と共に顕在化して想定外の事象(クライシス)を発生させる可能性がある。従い、リスクを特定して管理し顕在化させないことが、プロジェクト成功に向けての大きな要因である。欧米では、リスク管理(Risk Management)よりも損失予防(Loss prevention)と称されることが多い。これは、安全、環境を含めて殆どのリスクの顕在化がコスト損失に帰結される側面を持つことによる。

 リスクは、自然災害、事故、賠償責任、設計ミス、設備の性能ならびに機能不全、輸送遅延、工事遅延などの「純粋リスク」および景気変動、物価上昇、代金未回収、倒産などの経済的、経営的そしてテロを含む社会的リスク、総称して「投機的リスク」に分類される。

 純粋リスクについては、プロジェクト単位での管理が可能であり、計画時にリスクの洗い出しを行い、損失を回避、低減する対策を取る。

 プロジェクトの遂行に於いては、基本計画または基本設計の完了後に、各技術分野の専門家(SME: Subject Matter Expert)を招集して、ブレーンストーミングを行いリスクを特定する。この時に、類似事例(失敗事例、成功事例)を参考にすることが望ましい。その後にFMEAの手法を用いて、発生頻度、発生した場合の影響度について定性的に評価して、リスク分析表に取り纏めることが一般的である。

 リスク分析表では発生頻度の多少、影響度の大小により、領域(リスクエリア)を区分(リスクマトリックス)して領域に応じた対処方法を策定する。対処方法は原則として保有、低減、回避、転嫁・移転の4種類に分類される。
A)   リスク保有
  リスクが、受け入れ可能な影響度であると判断された場合に、特に対策をとら
  ず、その状態を受け入れる。
B)   リスク低減
  リスクの発生頻度を下げる、もしくはリスクが顕在した際の影響度を小とする。
  または、それら両方の対策をとる。
C)   リスク回避
  リスクを生じさせる要因そのものを取り除く。リスク破棄とも呼ばれる。
D)  リスク転嫁、移転
  リスクをプロジェクトの管理範囲外に「転嫁、移転」する行為で、リスク共有
  とも呼ばれる。最も典型的な対策は、設計・工事賠償保険の付保である。また、
  リスク低減、回避を目的として、専門家に業務をアウトソースする行為も該当
  する。

 プロジェクトの初期段階で、リスク保有、低減、回避について検討し、その結果をプロジェクトチームで共有してリスク転嫁、移転の必要性を議論しておくべきである。

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