GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第33回】

2020/06/05 品質システム

1.通報
 人は失敗した時、隠したがるものである。失敗して、非難されることを避けたい思い、責任取りたくない、賠償したくないと考えるからである。日本人は海外に比べて、「すみません」という言葉を使うことが多い。海外では、すぐ謝らないともいわれる。GMPでは、謝罪を求めていない。しかし、製造所の多くで、ヒューマンエラーの発生時に、始末書的な発想で、反省を求めていないだろうか。反省することにより、その問題点を作業者が自覚するように考えてのことと思う。エラーの多くが後に発見される。それは、作業者自身が、そのエラーにより、品質にどのように影響するかリスクを自覚していないために発生している。また、自身の失敗を隠そうとの思いによるものである。エラーをしたことで、叱られる、反省文を書かなければならなければ思えば、当然であろう。しかし、根本としては、そのエラーが品質にいかに影響するかを理解していないことで、報告が遅れ、対応ができなくなることも起こる。いかに早く逸脱発見報告をすることで、品質への影響を低減できるかを作業者が理解することが重要である。
 コロナ禍において、「自粛警察」が報道された。「公園で子供が遊んでいる」や「パチンコ屋や飲食店が営業している」などを110番したり、SNS等で拡散させることが起こっている。正義感から善意で行っているつもりだろうが、自分が守っているのに、他人が守らないと許せない気持ちが働くものである。問題発生時の通報システムが、告げ口とならないようにすべきである。査察や監査において、ついつい悪いところ探しになることがある。何も指摘しないことがいけないかのように、文書の誤字脱字、「てにおは」を指摘しても、意味がない。その誤記により、その手順を間違い、品質に影響することを伝えなければならない。手順書などのルールを守っていないといけないと思う気持ちは大事だが、そのルールが作成された意義を理解することが必要である。つまり、その手順から逸脱することで、どのように品質へ影響するか、そのリスクがどこにあるかを理解することが重要である。
 私の経験であるが、査察時に指摘した事項を理解されないことがあり、議論することもよくあった。手順書に記載されているから、やっている。以前の査察や監査で言われたから、やっていることも多いのではなかろうか。何故、その作業が必要か、その工程を行っているかの意義を知らなければならない。査察官は、その製造所の品質システムをすべて理解しているわけではない。場合によっては、そのとおりのことの実施がなくても、別の方法や別の面からのシステムがあり、そのリスクが発生することがなければ問題ない。査察や監査で、議論もせず受け入れるのではなく、きちんと自身の製造所におけるシステムを主張できるだけの知識を作業者は持っていなければならない。
 大事な点は、
①    何が逸脱になるのか、どの行為が逸脱かを明確にすること。
②    その逸脱により品質に影響するリスクの有無と影響度を把握すること。
③    品質への影響するリスクの発生度を見極めること。
問題点を問題と認識できなければ、発見報告も通報や指摘もできない。問題点を認識するには、その影響するリスクを考えられなければならない。リスクを考えるためには、過去のCAPAの実績を把握することが欠かせない。

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁。1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)締結の際のEU調査、2005年製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
 ・平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
 ・平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職後、医薬品原薬輸入商社、製薬企業、コンサルティング企業で品質保証やGxPコンサルタント業務に携わる。2025年6月よりGMPコンサルタントとして独立、現在に至る。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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