ICH Q10について(1)

ICH Q10(Pharmaceutical Quality System)がStep 4になったのは2008年6月、次いで、国内に通知として発出(Step 5)されたのが2010年2月である。Q10のStep 4到達後は、Eudralex vol.4 Part I、Chapter 1がPharmaceutical Quality Systemとして改正され2013年1月に施行、国内ではGMP調査要領や改正バリデーション基準、GMP事例集2013年版にQ10の要素が取り入れられ、今や医薬品品質システム(PQS)はGMPの運用に必須のものになっている。

 Q10の専門家作業部会(Expert Working Group: EWG)は、2005年11月、シカゴで立ち上がり活動を開始した。そこでは、Q8(Pharmaceutical Development)とQ9(Quality Risk Management)がStep 4に到達し、EWGとしての活動を終了したところであった。Q-trioといわれるQ8、Q9、Q10が発出された当時、これまでのQ6以前のものと異なり、極めて概念的で理解し難いといった批評をいただいたことがある。Q8、Q9、Q10それぞれが難解で、かつQ-trioとしてholisticに運用せよと言われれば、ガイドラインを受ける側は至難の技と思わざるを得ないところだ。しかしながら、その後の公式トレーニングや、厚生労働科学研究班の成果物等によって、最初の発出から10年になろうとしている現在、それらを研究しながら運用される方々の努力の甲斐もあって定着してきた感がある。何故、Q-trioがQ6以前のものと性質を異にして多分に概念的なものとなったのか、これは2003年のBrusselsでの会議で議論され、今のQ8、Q9、Q10で示されるような概念をガイドラインにすることを決定したところによるが、残念ながら筆者は立上げの頃の情報は持たず、当時の専門家の方々に聞くしかないところである。しかし、Q8~Q10や、Q-trioのQ&Aの作業部会での経験からは、これらは当局の活動を中心とした運営全般に関わるものであるからという推察を持たざるを得ない。Q8は製剤開発(後のQ11は原薬の開発)のアプローチを定めたものだが、このアプローチを調和するということは、規制当局の処理手法、即ち審査に対する考え方が調和される事と捉えられる。一方、Q10は、当局による査察に対する考え方が調和されるという事になる(奇しくもここにPIC/Sも絡む)。乱暴な言い方をすれば、これまでICHの品質領域は主に規格の調和を考えていたところが、ここにきて審査や査察の方法論の調和にまで及んできたということになろう。そして、Q12(Pharmaceutical Product Lifecycle Management)においては、規制の変更プロセスの調和に及び、審査と査察の両面からの議論が行われている。

 Q10については、Step 4到達前後、当時の日本製薬工業協会(Japan Pharmaceutical Manufacturers Association: JPMA)のトピックリーダーや副トピックリーダーから幾つか解説されており、既述のとおり各位の努力によって理解が進んでいるところである。従って、ここでQ10に対するテクニカルな説明をする必要はないと考え、ガイドライン作成に関わった経験から、どのような経緯を経てQ10というガイドラインが出来てきたか、より舞台裏から見たQ10を伝えることができればと思っている。Q-trioは特に概念的な性質が強いことから、この情報がより理解を深めるための一助になればと考える。

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