ラボにおけるERESとCSV【第64回】

2020/05/08 施設・設備・エンジニアリング

望月 清

7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
 
■ VV社 2018/7/10 483
施設:原薬工場と製剤工場


Observation 1
①   試し打ち(Trial Injection)
  標準液によりHPLC、GCの試し打ちを実施しているが、2018/2以前の試し
  打ちは、正式記録に含まれていない。

★解説:
機器の動作確認のための試し打ちを隠れ蓑として良いとこ取りの測定を行うことがあり得るので、試し打ちの正当性が査察において調査される。
試し打ちを行う場合は以下の様に行い、データレビューにおいてこれらの確認を行い記録を残すこと。
 ・ 試し打ちのSOPに従い実施する
 ・ 試し打ちの記録を維持する
 ・ データレビューにおいて試し打ちの正当性を電子記録により確認する
 ・ 電子記録により正当性を確認した記録を残す
 ・ 測定対象のサンプルにより試し打ちを行わない
 ・ 測定対象のサンプルを使用しなかったことを証明できるように記録を残す
  (試し打ち用サンプルの調製記録を残すなど)
連載第32回のB社の事例も参照されたい。また、連載第15回と連載第22回において解説したHPLCプレコンディショニングにおける試し打ちに対するMHRA(英国医薬品庁)とFDAの指針も参照されたい。

 
Observation 2
①   繰り返し測定
  同じサンプルが、4/26と4/27にテストされている。4/27のテストが採用され、
  4/26のテストは正式記録に含まれていない。

★解説:
良いとこ取りをしたと指摘されている。良いとこ取りの指摘はウォーニングレターになりやすいので注意が必要である。4/26のテストを正当な理由により棄却したこと、および棄却の正当性をデータレビューにより確認した記録が残されていなかったものと推測する。棄却したテストの電子記録を保存すること。さもないと、生データを削除したとの指摘をうける。データレビューにおいては電子記録を参照して棄却の正当性を確認すること。

4/26のテストがOOS(規格外)となったがラボエラーが原因であると判断し、4/27に再テストを行い規格内に入ったので、4/26のテストを棄却し4/27のテストを採用したものと推察する。ラボエラーが原因であるとの判定は手順に従い実施しその判定結果を記録に残す必要がある。OOSの処理に関するFDA指摘は多発しておりウォーニングレターになりやすいので注意が必要である。OOSの処理については下記のガイダンスが参考になる。連載第42回 R社のObservation 2の解説を参照されたい。
  ・ FDA「Guidance for Industry, Investigating Out-of-Specification (OOS)
  Test Results for Pharmaceutical Production」(2006/10)
  ・ MHRA「Out of Specification & Out of Trend Investigations」(2018/3)
  https://mhrainspectorate.blog.gov.uk/2018/03/02/out-of-specification-guidance/
  このガイダンスはFDAのOOS調査ガイダンスを補完するものと位置づけられ
  ており、フローチャートによる具体的なステップが示されている。


②   手計算の記録
  複数の分析者が流速を紙きれに手計算している。オリジナルレコードである
  この紙きれが正式記録に含まれていない

★解説:
オリジナルレコードもしくはその真正コピー(True Copy)は生データとして保存すべきなのはいうまでもない。また手計算しているとのことであるので、その検算データも正式記録として保存する必要がある。さもないと、分析をレビューできない。

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執筆者について

望月 清

経歴 合同会社エクスプロ・アソシエイツ代表。
1973年山武ハネウエル株式会社(現アズビル)入社。分散型制御システム(DCS)を米国ハネウエル社と分担開発。2002年よりPart 11およびコンピュータ化システムバリデーションのコンサルテーションを大手製薬会社にご提供。2009年より微生物迅速測定装置の啓蒙普及に従事。2014年5月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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