医療機器リスクマネジメント-国際規格の要求事項と実践対応-【第8回】

2020/03/27 医療機器

中谷 敬

医療機器安全規格の分類
近年の医療機器国際規格では、安全に対して一律的な規定をするのではなく、製造業者に対してリスクマネジメントを要求することで、医療機器を安全に開発・設計・製造するという考えが基本になっている。医療機器に関する次のような国際規格に、リスクマネジメントによる安全規定が取り込まれている。

(1)  品質管理システム規格(QMS規格)
  QMS規格は、安全な医療機器を開発・設計・製造するための体制構築
  について規定している。医療機器のQMS規格であるISO 13485は、
  リスクマネジメントを実施できる体制構築を要求事項として規定し
  ている。
(2)  プロセス規格
  個々の医療機器を、開発・設計・製造するプロセスについて規定するこ
  とにより、医療機器の安全を確保することを目的としている。リスクマ
  ネジメント規格も、このプロセス規格の一つと考えてよい。後述するよ
  うに、ユーザビリティ、ソフトウェア、医療機器生物学的評価について
  規定したプロセス規格が発行されている。
(3)  製品安全規格
  完成した医療機器製品の安全性について規定する規格である。医用電気
  機器の安全性を規定したIEC 606061-1シリーズの規格群が代表的なも
  のである。その他に、体外診断機器、植込型医療機器に関する安全規格
  などがあり、いずれもリスクマネジメントを取り入れている。

 医療機器の安全に関する国際規格については、第1回の表1-1にまとめておいたので参照してほしい。今回は、これらの規格のリスクマネジメントに関する規定について説明する。


品質管理システム(QMS)規格のリスクマネジメント規定
 ISO 13485は、一般工業製品のQMS規格 ISO 9001を基にした医療機器の品質管理システム規格である。この規格の「製品実現」に関する要求事項では、次のようにリスクマネジメントの文書化を明記している。
「組織(医療機器製造業者)は、製品実現のために必要なプロセスを計画して構築する。品質マネジメントシステムのその他のプロセスの要求事項と整合性をとる。組織は、製品実現におけるリスクマネジメントの一つ又は複数のプロセスを文書化する。リスクマネジメント活動における記録は維持する。」(ISO 13485:2016、7.1)

 これは、医療機器のQMSの中に、リスクマネジメントを実施できる体制の構築を要求している。リスクマネジメント規格ISO 14971でも、リスクマネジメントの実施体制を経営の責任で構築することを求めているが、上記のISO 13485の規定は、これに対応するものである。

 ISO 13485は、全ての医療機器の開発・設計・生産体制について規定している。したがって、製品安全規格が制定されている医用電気機器や体外診断機器の他、製品安全規格が制定されていない医療機器も含めて全ての医療機器の開発設計にリスクマネジメントの実施が求められる。

 

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執筆者について

中谷 敬

経歴 1974年、日本光電工業入社。医用センサ、生体情報計測機器の開発・設計に従事。
在職中、IEC/SC62D、ISO/TC121/SC3の日本国内委員会幹事として、医療機器国際規格の制定・改訂作業に参加。国際エキスパートとして日本コメントの作成・まとめを行い、国際会議に参加しての日本意見の反映に尽力した。
定年退職後は、コンサルタントとして独立。各種セミナー講師の他、首都圏の大学で客員教授、非常勤講師として医療機器技術、医療安全、国際規格について講義している。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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