アジア各国の文化を知りたい!「日中異文化」雑感(四)

 昨年(2014年)11月に始めたこのシリーズは、身近な事例を取り上げながら、言語構造の違いを含めた言葉の表現の特徴に焦点を当てて、日本と中国の異文化の一側面をみてきましたが、いよいよ今回が最終回で、四コマ漫画ではありませんが、起、承、転、結の結に当たることから、もう少し言語構造上の根本的な違いについて掘り下げて結びたいと思います。にわか言語学者の顔をして論ずる場面が出てくるかも知れませんが、ここは少々堪えて最後まで付き合い願うばかりであります。
 
「管他三七二十一」
 いきなり訳の分からない言葉を持ち出すようですが、これは、「後は野となれ山となれ」の意味に相当する中国語の表現です。
 ご存知かもしれませんが、2014年11月に中国で開催されたアジア太平洋経済協力首脳会議で、習近平氏が提唱した経済圏構想を「路」と表し、さらにその昔、中国の改革開放政策へ転換し始めた時に鄧小平氏が打ち出した「項原則」等を見ても分かるように数字を用いた表現が多いのは中国語文化の一つの特徴と言えましょう。日本も、「体改革」、「アベノミクスの本の矢」のような例が見られますが、中国の比ではないのです。もちろん、これは現代の政治経済の造語にとどまるものではなく、中国語辞書を引くと、漢数字で始まる単語がびっくりするほど多いことが分かります。これらさえ覚えていたら、中国語のツボを抑えたようなもので、相当な中国通になっているに違いありません。面白いことに、一から十まで無いものはなく、しかも、昔から日常的によく使われている表現が殆どで、下表にその典型的な例一部を示します。

 
 なんとなく具体像を漢数字に託して言葉にインパクトを加えようという言語特徴の一面が透けて見えた気がします。油絵でいうと、写実主義とでも言いましょうか。それと対照的に、日本語には印象主義を思わせる表現が多いように思われます。豊富な擬態語の存在が、象徴的な日本語の特色の一つです。「そろそろ」、「ぼちぼち」、「ふわっと」、「ばさっと」など、ひらがなで綴るこのような表現は実に魅力的です。中には静寂さを表すもの(「しんと」)までが用意されているから、他言語にまず見られない光景でしょう。相手に押し付けの意を抱かせることを極力避け、代わりに自ら想像させようとする国民性かもしれません。同じ東洋文化でありながら、これほど差の大きいことはなく、この地域ならではの事象と見て良いでしょう。

「媽、麻、馬、罵」
 これは中国語の発音が難しいことを引合に出す一番良く使われている例です。この四つの字ともMaと発音しますが、音声がそれぞれ異なり、当然意味も異なります。従って、中国語に四声という発音のルールがありますが、音声の長さと特に関係がないのです。しかし、日本語はその正反対で、「拍」を打って発音します為、単語の音声の長さが変わりますと意味が違ってしまいます。東京語の「箸」のシと「橋」のハといった程度、音声の高低はありますが、基本的には揚がり下がりするのではなく、全体的に平らに発音する規則となっています。その結果、他地域の人々の耳には異なる響きに聞こえてくるようです。旧満州国に居たあるアメリカ人伝教師が初めて日本語の会話を聞いていて、「まるで機関銃の銃声のように聞こえる」と、嘗て国語の第一人者の金田一春彦氏が著書で引用しています。また、同氏によると、当時のラジオを聞いていると、やたらにシカイシカイと聞こえていると言います。それは「歯科医師会司会」を言っているそうです。無理もない、古い時代の中国語から借用された「字音語」を使っている関係上、同音異義語が日本語に沢山存在するからです。中でも、コウショウというのがランキングナンバーワンで、「日本語大辞典」には、なんと31も載っているのだそうです。暇な方は一度確かめてください。

 これも金田一先生が紹介していたあるお話です。

 ヨーロッパに住んでいた若い女性が日本の地名を「ナガサッキ」、「ヨコハッマ」と聞いて、さぞ素晴らしい都市だろうと、憧れて日本にやってきます。ところが、現地に着いたら、みんなが「ナガサキ」、「ヨコハマ」と呼んでいるので、なんとつまらないイメージに変わってしまったという実在の話らしいです。

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