医薬品,医療機器滅菌の新しいトレンド“放射線滅菌”【第2回】

 滅菌は、「製品及び包装に付着した全ての微生物を殺滅または除去すること」と定義されています。
 ところが、無菌性の保証は微生物の生残確率が10-6(100万分の1)となっていて、全て(ゼロ)ではありません。矛盾しているようですが、この理由は微生物の死滅速度と生菌数の関係を数学的に取り扱った滅菌理論により説明されています。本稿では、滅菌理論の概要と滅菌条件がどのように設定されるのか、一般的な設定法を例に設定の根拠を解説します。また、滅菌条件の有効性を維持し確認するための方法を紹介します。


1.微生物の滅菌処理による死滅 
 日本薬局方、JIS規格、ISO規格では、「滅菌は、製品及び包装に付着したすべての微生物を殺滅または除去すること」と定義されています。
 図1のように微生物を滅菌処理すると生菌数は処理時間ともに減少していきます。動物の死滅と異なるのは、微生物は処理によって全て即死、または一定時間になると全て死滅するのではなく、処理時間ともに一定の割合で減少していくという実験結果です。そして、図2のように、生残菌数の対数値は処理時間と反比例の関係になることが多くの種類の微生物で確認されています。つまり、微生物は滅菌処理によって対数的に減少するということです。そこで、この関係を数学的に処理し、処理時間と生残菌数の関係を定義した下記の数式が考えられました。また、後になって微生物の死滅は処理による損傷修復と関係し、DNAなど生体維持機能部位の損傷が損傷修復能力より高い場合に死滅することがわかり、微生物の生死を確認するためには増殖による確認が必要であることがわかりました。

   滅菌時間=D×log (N0/N)     (1)
   D: D値(菌数を1/10にする処理時間)
   N0: 初発菌数  N:  SAL(一般的には10-6



図1微生物の滅菌処理による死滅


 この理論式(1)を見ると、生残菌数は対数値として取り扱い、対数値0では生菌数1、対数値-1以下になると生菌数は 0.1 , 0.01・・・となります。微生物は分割できませんので対数値ゼロ未満は生残確率(確率的概念)と考えます。ただし、この理論式ではどこまでいってもゼロになりません。そこで、推計学的概念を取り入れ、限りなくゼロに近い生残確率10-6(100万分の1)を滅菌とし、滅菌は微生物を生残確率10-6(無菌性保証水準;SAL)以下の状態にする行為としました。 生残確率10-6の考え方として、”製品百万個の中に1個の非無菌製品があったら残りは無菌なのか” とよく聞かれるのですが、生残確率10-6は個々の製品が有しているゼロに非常に近い確率であって、上記のような考え方ではありません。確率論的には下記の通りになります。

1/106 + 1/106 + 1/106 + 1/106 + ・・・・・  =1

 
 図2の通り、滅菌理論では、生菌数または生残確率で得られた直線を10-6まで外挿しますが、生残確率10-6を確認するためにはどのようにしたらよいのでしょうか。そのためには、無菌試験を実施して無菌であれば確認できるのではないかと考えるのですが、試験の精度から無菌試験によって確認できるのはせいぜい10-3程度ですし、無菌試験は破壊試験なので10-6を確認するためには大量の製品を失います。
 そこで、初期菌数と直線の傾きから、その直線の有効性を生残菌数や無菌試験のエリアで検証する考え方が生まれました。初期菌数はバイオバーデンですし、直線の傾きは微生物の抵抗性を示しておりD値(菌数を1/10にする処理時間)と言います。また、初期菌数または直線の傾きのどちらが変化しても滅菌の保証は崩れてしまいます。これが、バイオバーデン数とバイオバーデン抵抗性が重要な理由です。現在は、滅菌工程の有効性をバリデーションによって検証しますが、上記のような微生物の特徴から、微生物による滅菌工程の確認は設定された滅菌条件を検証する上で重要な作業です。


図2 微生物の対数的死滅曲線とSAL10-6(滅菌理論)

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