医薬品製造設備の基本、計画、設計、建設プロジェクトを学ぶ【第3回】

2017/12/16 施設・設備・エンジニアリング

8. 原薬製造工場建設プロジェクト
 本プロジェクトの特徴
 ここで、プロジェクト・マスタースケジュールで模擬体験しようとするプロジェクトの固有の事情を整理しておきます。
・本プロジェクトの契約時、顧客にて基本計画レベルの作業は終了している。顧客の期待はコントラクタの技術により、GMPに適合する設備を構築して欲しいということであり、基本設計で設備仕様の見直しを考えている。なお、開発からの技術移転情報は与条件に含まれて開示され、その中で、リスクの評価に基づいて重要工程が明らかになっている。
機械設備の基本情報や、原薬棟の基本的な考え方(配置、大きさなどの考え方)についても、この中に含まれている。
・与条件には、晶析・粉砕工程の操作条件が最終思決定されていないこと、基本設計期間中に実験により決定する必要があることが明記されている。この実験と結果の評価に2カ月程度かかる見込みである。
・製造する原薬は、非無菌の化学合成原薬である。
・建設地は、既存の製薬工場内に用意された整地された敷地である。また、必要な用役は既存設備があり、そこから引き込みが可能である。
・プロジェクトの完成は、契約後18ヶ月後としている。
・本プロジェクトの遂行に向け、顧客では、専任のプロジェクト・チームを組織し、コントラクタと協力してプロジェクトを進めることを決定している。

 それでは、これからプロジェクトの全体工程表を辿ることにより、建設プロジェクトを見て行くことにしましょう

1)プロジェクトのフェーズ分け(工程表ID 1~11)
 一般的に、製造工場建設プロジェクトの工程は、プロジェクトの進展に伴い
 いくつかのフェーズに分けられます。ここでは、よく使用される、以下のフェーズ
 を採用しています。
  a) 基本設計(*1):プロセス計算などを通じて、基本的な設備仕様を決定し、
           基数、概略寸法などを明らかにします。さらに、顧客側の
           性能や品質などの要求事項を明らかにすることに主眼があり
           ます。
  b) 詳細設計 : 生産設備/付帯設備の製作・施工に使用する詳細な設計情報
           を決定します。
  c) 官庁申請 : 建築確認申請や消防着工申請などの許可申請をおこないま
           す。
  d) 調達   : 建設に使用する機材の調達(購入)、製作、並びに工事のサ
           ブコントラクトをおこない、工事設計や工事資材の調達を行
           います。
  e) 建設   : 建築・建築付帯設備(空調、用役設備など)、製造設備の現
           場組み立て工事をおこないます。
  f) メカコン : 建設工事が終了し、所定の検査や官庁による完成検査(建築
           完了検査や消防設備の完成検査、消防完成検査など)が終了
           したら、建設工事の完成となります。
           この完成日をメカコン(Mechanical completion)と呼びま
           す。
           これ以降、設備を使用できるようになります。
    g) バリデーション(*2):プロジェクトの開始の早い段階(基本設計)から準備
           されるバリデーション・マスタープラン(*3)の作成や、詳細
           設計段階・調達段階にわたって継続するプロトコルの作成、
           引きつづくコミッショニング アンド クヲリフィケーション
          (*4)の実施が含まれ、化学プラントとは異なった医薬設備
           建設に特有の、製造工程並びに設備に関する品質確認の段階
           を構成します。
  h) 試運転準備(プレ・コミッショニング(*5)):試運転前の準備作業で、単機の
           作動試験や配管の洗浄、水運転などが行われます。
  i) 試運転(試製造):商業生産前の実液を使用した試製造を行います。試運転の
           のちあるいは並行して、バリデーションの最終段階になる
           プロセス・バリデーション(*6)が行われます。
    j) 完成図書 : プロジェクトの設計成果物、調達機材、工事記録、バリデー
           ション図書などをとりまとめて、記録として保管できるよう
           に文書化します。

  (*1)基本設計の前段階として、基本計画(概念設計)を設けることがあります。
    基本計画では、基本設計を開始するため、顧客の要求事項をエンジニアリング図書に
    まとめ、設備コンセプトを「見える化」します。PDF,  PLOT PLAN, 簡略版機器リス
    ト、建築・空調・電気などの計画図が含まれます。
  (*2)Validation
  (*3)Validation Masterplan
  (*4)Commissioning and Qualification(C&V):
    工場設備の建設時に、コミッショニング(機械性能検査)、並びに適格性評価
    (DQ,IQ,OQ,PQ)を実施します。
    C&Qの実施とその終了をもって設備が完成します。
  (*5)Pre-Commissioning
  (*6)Process Validation(PV)

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執筆者について

戸崎 和夫

経歴 IPP management代表、技術士(化学)、中小企業診断士。
大学での5年間の研究生活ののち、1976年、大手エンジニアリング会社入社、エチレンプラント、化学プラントのプロセス設計を経て、国内外の化学、医薬、食品プラントのプロジェクト・マネージメントを担当。
EPCプロジェクトとして、医薬では、主に原薬製造設備、注射剤製造設備、化学では、繊 維、半導体、ゴム、樹脂、食品では、パン、食品添加物、調味料、精糖など20件以上のプロジェクトを手掛ける。この中で、国内初のケミカルハザード対応注射剤設備の構築も 経験している。
プロジェクトの遂行形態では、特にコンセプト段階からの一貫した提案型プロジェクト遂行の確立に意を注いだ。2014年退社後、中小企業診断士として独立、その後、独立行政法人にて、中小企業の海外展開の支援を行い現在に至る。
ISPE機関誌、Pharmaceutical Engineeringに原薬製造設備の設計に関する論文を3篇発表している。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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