製薬工場におけるヒューマンエラー対策の考え方【第9回】

人間にとって「記憶」は、日々の生活を送る上で極めて大切な能力の一つですが、残念ながら加齢に伴う記憶力の低下やもの忘れ、また、記憶した内容が時間の経過とともに変化するといった特性により、思わぬトラブルの原因にもなります。また、記憶は「あやふや」(不確実、信頼できない)であるといった特性により、日常、誰しも経験のある、「言った・聞いていない」といった些細な揉めごとの原因にもなります。このように、記憶には不確実な側面が多く、この特性が、医薬品製造に限らず、あらゆる業務のトラブルの原因になっています。記憶より記録と言われる所以です。
 
今回はこの「記憶の特性」とヒューマンエラー対策について考えたいと思います。
前回、教育訓練の実効性に焦点をあて、「実効性の評価」とは教育訓練がヒューマンエラーの低減にどれだけ寄与したかということを評価することと述べましたが、「記憶の特性」は、この教育訓練の実効性を確保し、ヒューマンエラー低減を実現する上で考慮すべき重要なヒューマンファクターの一つと言えます。実効性を確保するためには、教育訓練の内容に関係なく、先ずは「教育訓練された知識や技術が教育訓練を受けた者の中に定着させる」、ことが重要であり、そのためには、記憶の特性を知り、それを踏まえた教育訓練の実践が求められるからです。
 
仕事に対する取り組み姿勢など人間としての品格を育てることも教育訓練の目的であるとはいえ、第一の目的が、担当する業務を的確に遂行するために必要な知識や技術の習得にあることに変わりはありません。この重要な目的に対して必要になるのが、「理解」と「記憶」の二つのキーワードです。
 
理解に関しては、分かりにくい部分があれば講師への質問や自分で調べるなど、それなりの努力をすれば大方は解決すると思いますが、記憶に関しては、“忘れる(忘却)”ことや、“記憶した内容が変化”すること、また、一旦、記憶した事柄の“上書きが難しい”、といった特性によりヒューマンエラーが引き起こされることが示唆されており、様々な状況に合わせた対策が必要と考えます。
 
一方、人間にとって“忘れること(忘却)”も必要との見方もあり、これに関しても、いろいろな場で議論されています。例えば、新しい事柄を記憶するために過去の不要な記憶が消される、といったこともその一つです。また、過去の不幸な出来事の記憶が経時的に消えていくことで、人間は少しずつ日常の平安を取り戻すことができる、といったこともこれに該当するのではないでしょうか? このように、忘れることが、人間がよりよく生きていく上で必要とされる側面もあることは事実ですが、忘れることにより起きることの多くは好ましくないことです。
日常生活においてはガスコンロの火の消し忘れ、漢字や人の名前を思い出せない、大切なものを仕舞いこんだ場所が思い出せない、など。仕事面では、重要な伝言を頼まれたことを忘れる、約束の日時を忘れる、報告書の作成・提出を忘れる、など、挙げれば切りがありません。これらの中には、場合によっては大事に至るケースも少なくありません。

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