ゼロベースからの化粧品の品質管理【第44回】

2024/05/24 化粧品

化粧品GMPに関して、実際の運用面から留意事項について。

 

―最新の化粧品を取り巻く規制状況―

 化粧品GMPに関して、実際の運用面から留意事項についてお話させて頂いています。
 今回は、化粧品製造所の査察はISO22716を基に行われている中で、品質保証の充実に向けてどのように取り組むべきかについてお話したいと思います。
 皆さんご存じの通り、ISO22716は17年前の2007年に国際規格として制定され、日本では日本化粧品工業連合会(粧工連)によって2008年に自主基準として採用され、化粧品業界のスタンダードとして採択されています。しかしながら、ISO22716はISI9001のように定期的な改訂は行われていませんが、化粧品の微生物試験等の各論に関してはISO化が行われています。更に、医薬品GMPでは法的要求事項も見直しが行われ、管理体制の充実が進んでいます。従って、ISO22716の要求事項のみに絞って品質保証体制を議論することは、片手落ちではないかと考えます。
 そこで、最近話題になっている事項を中心に、ISO22716の要求事項以外の事項について説明させて頂きます。

1.化粧品の容器包装に関する環境配慮設計指針(JICA:2022年6月)
 化粧品の容器包装は、内容物の保護、使用や取扱いの利便性、情報の提供といった役割と共に、環境への配慮が重要な要素とおり、容器包装に係る適正化方針や自主行動計画が提示されています。

(粧工連の指針)
● 1991年「化粧品包装適正化方針」
● 2006年「化粧品業界における容器包装の3R推進に係る自主行動計画」
● 2016年「化粧品業界における容器包装の環境配慮に係る自主行動計画」
 

 更に、2022年4月「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行されています。
 全材料共通で、“詰め替え易さの向上”が求められ、“Reduce”、“Reuse”、“Recycle”、“Renewable”の視点から環境配慮の設計が求められています。
 更に、環境配慮として全材料共通で“中身を最後まで使い切れる容器の利用”が求められています。
 何れの要求事項も当然の要求事項ですが、海外材料を使用する場合には、プラスチックで要求されている“内容物に接触しない部品においても食品接触対応材料等の安全性に影響の材料の使用”について、どこまで徹底されているのか注意が必要です。更に、リサイクル適正を考慮した単一素材化、複合素材・材質の易分離化等が行われているかには疑問を感じます。

2.ISO16128に基づくオーガニック成分の比率計算方式
 国際標準化機構のISO/TC217 WG4において、化粧品の自然及びオーガニックに係る基準として2016年2月にISO 16128 Part 1「原料の定義」が、2017年9月にはPart 2「原料及び製品の基準」が制定されました。この中では、化粧品の自然指数・オーガニック指数等が定義され、化粧品中の自然及びオーガニック成分の比率の計算方法が示されています。
 製品の記載例としては、自然由来指数92%(水80%を含む)ISO16128準拠)、オーガニック由来成分20%(水を含まない)ISO16128準拠 等が示されています。
 この中で、非自然成分が50%を超える原料は非自然原料とみなされ、自然由来部分は自然由来指数には算出されないことの注意が必要です。

3.欧州委員会規則(EU)2024/858(2024年3月15日)
EU化粧品規則(EC)No 1223/2009を改正し、化粧品に使用される特定の ナノ材料を規制。

【ナノ形態での化粧品への使用禁止物質】

  • 登録No.1725:SCCSの見解に基づく、スチレン/アクリレート共重合体(ナノ)およびスチレン/アクリレート共重合体ナトリウム(ナノ)
  • 登録No.1726:SCCSの見解に基づく、銅(ナノ)およびコロイド銅(ナノ)
  • 登録No.1727:SCCSの見解に基づくコロイド銀(ナノ)
  • 登録No.1728:SCCSの見解に基づく、金(ナノ)、コロイド金(ナノ)、チオエチルアミノヒアルロン酸金(ナノ)、アセチルヘプタペプチド-9コロイド金(ナノ)
  • 登録No.1729:SCCSの見解に基づく白金(ナノ)、コロイド状白金(ナノ)、アセチルテトラペプチド-17 コロイド状白金(ナノ)

また、附属書Ⅲ(制限物質)に新規項目No.372「ハイドロキシアパタイト(ナノ)」を追加し、SCCSの見解に基づき、以下の製品及び特定条件下でのみ使用を認めています。

【条件】

  • 歯磨き粉:最大10%
  • マウスウォッシュ:最大0.465%
  • 吸入による肺暴露につながる噴霧可能な製品へは使用不可。
  • 一定のサイズであり、粒子表面がコーティングまたは表面改質されていない場合は使用可能。
4.化粧品法規(EC)No1223/2009の改正(2022年11月11日)
 EU化粧品法規(EC)No1223/2009のホモサレート(Homosalate)とレゾルシノール(Resorcinol)の使用を改正し、ジブチルヒドロキシトルエン(Butylated Hydroxytoluene)、アシッドエロー3(Acid Yellow 3)、HAA299(ナノと非ナノ形態)の使用制限を追加しました。
 
① ジブチルヒドロキシトルエン、CAS No 128-37-0:合成酸化防止剤。うがい水中の最高安全濃度は0.001%、歯磨き粉中の最高安全濃度は0.1%、その他の洗い流さない類と洗い流す類製品中の最高安全濃度は0.8%
② アシッドエロー3、CAS No 8004-92-0:着色剤で、非酸化型染毛製品における最高安全濃度は0.5%
③ ホモサレート、CAS No 118-56-9:日焼け止め剤。現在許容使用濃度10%で、化粧品に紫外線日焼け止め剤としてホモサレートの使用は人の健康に潜在的なリスクがあるとされ、フェイス製品(非スプレーおよびポンプスプレー製品)に限定され、最高安全濃度は7.34%
④ HAA299、CAS No 919803-06-8、ナノメートルと非ナノメートルの2種類の形態:日焼け止め剤。化粧品にHAA299の最高安全濃度は10%です。ナノ形態のHAA299は、提供された特徴範囲内(最小純度が97%以上、粒子数に基づく中央値粒子径D50が50nm以上)であり、皮膚用化粧品に日焼け止め剤として使用する場合に安全であり、最大使用濃度は10%です。また、化粧品にHAA299のナノと非ナノ形態を混合する場合は、最高濃度が10%を超えてはなりません。
⑤ レゾルシノール、CAS No108-46-3: 2013年の欧州委員会の「ヘア製品」の再定義に基づき、レゾルシノール酸化型染毛製品を眉毛に使用することを禁止すべきではないため、警告語の「眉毛」という言葉を削除し、付録III第22条i列(a)点の最後の言葉「まつ毛または眉毛を染めるのに使用してはいけません」を「まつ毛を染めるのに使用してはいけません(Do not use to dye eyelashes)」に置き換えた。

 

 

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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