ラボにおけるERESとCSV【第35回】

7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
 
■J社 2016/6 /3 483
施設:原薬工場

 
Observation 1
分析者もレビュアーも紙のクロマトグラムしか確認していない。これでは、積分が適切に行われたかどうか評価できないし、不純物ピークを精査できない。査察においてクロマトグラムをレビューしたところ、不純物ピークをメインピークから分離できておらず、不純物レベルを正確に計算できていないことが判った。
 
★解説:
クロマトグラムはダイナミック・データであり、オリジナル形式の電子記録が生データとなる。したがってクロマトグラムの場合;
   ▷ ​オリジナル形式の電子記録を維持すること
   ▷ ​データレビューはオリジナル形式の電子記録に対し行うこと
 
FDAのデータインテグリティ・ガイダンス(ドラフト)に以下の記載がある。
   ある種のラボ機器の電子記録は動的記録であり、プリントアウトや静的記録
   は、オリジナル記録が持つ動的データを維持していない。 たとえば;
   ✓FT-IRにより生成されるスペクトルファイルは再処理できる
    (筆者注:波形の拡大表示、カーソル当て など)
   ✓しかし、静的記録やプリントアウトは再処理できないので、オリジナル記録
    あるいは真正コピーを維持するというcGMP要件(§211.180(d))を満たす
    ことができない
   ✓全てのスペクトルが表示されないと、不純物が見逃されるかもしれない
紙の記録あるいは電子記録にかかわらず、第三者レビューはオリジナル・レコードに対し行うこと。
(出典:FDAガイダンス 第3-10節)


Observation 2
権限のないデータ変更を防止できておらず、またデータ削除を防止できていない。
例えば;
1) HPLCに監査証跡機能とID/パスワード管理機能がなく、データの削除や上書きを
  防止できていない。電子記録の保存は、無保護のフロッピーディスクにクロマト
  グラムだけが保存されていた。このフロッピーディスクには、装置メソッドや積
  分パラメータが保存されていなかった。
2) FTIRに監査証跡機能とID/パスワード管理機能がなく、分析者は電子記録を削除
  できてしまう。
3) UVに監査証跡機能とID/パスワード管理機能がない。分析者は電子記録を保存し
  ていない。
4) 偏光計に監査証跡機能とID/パスワード管理機能がない。分析者は電子記録を保
  存していない。
5) クロマトグラフィとFTIRの監査証跡をレビューするよう規定されていない。
 
★解説:
1)項について
  ▷ HPLCにアカウント管理機能と監査証跡機能は必須である。これらの機能
    欠落があると、FDA査察において指摘される。
  ▷ HPLCはダイナミック・データを生データとして電子記録で維持する必要が
    ある。
  ▷ HPLCの電子生データには、クロマトグラムの他、装置メソッド、分析メソ
    ッド、監査証跡などのメタデータを含める必要がある。
  ▷ HPLCは電子生データとなるので、電子生データを変更・削除から保護する
    必要がある。
2)項、3)項、4)項について
  ▷ 当査察官は、HPLCのみならずFTIR、UV、偏光計についても電子記録を維持
    するよう求めている。また、IDとPW等によるアカウント管理機能と監査証
    跡機能も求めている。
5)項について
  ▷ 日常データレビューの一環としてデータに関する監査証跡をレビューする
    こと。
    (出典:PIC/Sガイダンス 第9.6節)
  ▷ データレビューには監査証跡を含む関連メタデータのレビューを含めるこ
    と。(出典:MHRAガイダンス)
  ▷ 監査証跡のレビューにおいて以下を確認する。
   ・権限のないデータ変更・削除(メソッドを含む)
   ・不都合なデータの隠蔽
   ・正当な理由のない繰り返しテストや再解析など

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