【第6回】オランダ通訳だより

薬が足りない!

コロナ禍以前から、世界的な医薬品不足が報じられていますが、オランダも多分にもれず苦戦しています。そこで今回は、オランダ国内の医薬品不足についてご紹介します。

まず、「医薬品不足」の定義ですが、国によって異なるそうで、2021年に発表された文献によると、欧州だけでも26種類存在します。オランダでは、「医薬品が国内で入手できない場合や、14日以上入手できない場合」と定められています。同一医薬品がくり返し不足する場合は、その都度カウントされます。

調剤・介護サービス機関BENUのデータによると、2019年に1492件報告されていた医薬品不足は、2020年(1480件)、2021年(1007件)と減少に転じたのち、2022年に大幅に増加して、過去最高の1504件を記録しました。

民間報道機関の記事によると、一時的または完全に入手できなくなった医薬品が、2010年は174種類でしたが、2018年は769種類に増え、さらに2023年には2292種類の医薬品が少なくとも2週間欠品しました。

やむを得ず、患者さんにお薬を直接交付した医師や、廃棄すべき返却・余剰医薬品を交付した薬剤師もいましたが、いずれも禁止行為です。これまでのところ、医薬品不足が人命にかかわる事態に発展したことはないそうですが、すぐに交付されない患者さんの40%が、有形無形の負担を強いられています。

医薬品が不足したときの標準的な対応は、まだ薬のある患者さんへの交付を先送りしたり、一回の処方量を減らして、より多くの患者さんに行き渡るようにしたり、それでも足りない場合は、(一時的に)代替医薬品で賄われます。投与形態の変更、他社品や同じ薬効の他剤に切り替えを行います。

不足している医薬品の主なものは、抗リウマチ薬、抗てんかん薬、必須抗生物質、パーキンソン病治療薬、狭心症治療薬、抗がん剤、抗精神病薬など。一時期は、パラセタモール(アセトアミノフェン)や湿疹用軟膏が品薄になったこともありました。

医薬品不足の原因がどこにあるのか、関係各所が見解を発表していますが、立ち位置の違いによって切り口も違います。

調剤介護サービス機関BENUの弁:
1)医薬品の製造工場が少ない
原料や医薬品が中国、インドなどの低賃金国で製造されており、製造所の数も限られている。もし一製造所で製造ミスがおこれば、世界中の医薬品不足をもたらすことになるなど、製造工程が、脆弱かつ柔軟性の乏しいものになっている。


2)薬価が低い。
オランダ国内の薬価が過去数年で大幅に下落した結果、他国を下回るようになった。医薬品メーカーは、数の少ない医薬品を高額で購入する国に優先的に販売している。

3)医薬品在庫が総じて少ない
在庫数を抑えると保管場所が節約でき、かつ有効期限切れで無駄になる在庫品も減るため、費用を抑えることができる。しかし供給不足が発生した時に、柔軟な対応ができなくなる。

医薬品審査当局CBG(オランダ医薬品評価委員会)の弁:

  • 製造の遅延
  • 製造所の生産計画や、物流の問題
  • 需要増加で、しばしば同等医薬品の供給が困難になる
  • 製造原料の不足
  • 医薬品の品質が要件を満たさない
  • 倒産など企業の経済状態や、メーカーによるライセンスの取り消し

 

 

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