【第2回】医薬品GMPの散歩道 ~いま考えたい品質第一への道しるべ~

QAをめぐる課題(その1)


1.はじめに 

 今般の改正GMP省令で、品質部門が「品質保証に係る業務を担当する組織」(以下、QA(Quality Assurance))と「試験検査に係る業務を担当する組織」(以下、QC(Quality Control))から構成されることが規定された。周知のとおりであるが、PIC/SのGMPガイドラインをはじめ、海外の主だったGMPには特にQAという語は出現せず、ICH Q7(原薬GMPのガイドライン)にある程度かと思われ、これは画期的と言ってもよいかもしれない。昨今、製造所でのGMP違反が不正に至るケースが頻発しており、それに対する品質保証の要(かなめ)としてのQAの役割がクローズアップされるようになってきた。
 特にGMP省令に規定されなくとも、多くの製造所では従来よりQAが機能してきたと思われるが、筆者にも製造所のQA長を務めた経験があり、それをベースにQAをめぐる課題を考察する。なお、製造販売業者(製販)にもQA(GQP省令に基づく品質保証部門)があるが、本稿では主に製造所のQAを対象として議論を進める。

2.QAとは? QA業務の定義

 QAの業務をどのように定義すればよいのであろうか。前項で記したように、主なGMPにQAの語はなく、GMP省令ならびにGMP公布通知(逐条解説)やGMP事例集で明確に定義されているわけでもない。
 そこで、ICH Q7を参照したい。その用語集では、品質保証(QA)として、
「全ての原薬が目的用途に必要な品質を有し、その品質システムが維持されていることを 保証する目的でつくられた組織化した機構の総体。」
とあるが、原薬云々はともかくとして、分かりにくい。
 むしろ、次の条項を紹介しておきたい。主語は品質部門であるが、原文はQuality unitとなっており、後続の条項(第2.22条)の内容を考慮すれば、QAとみなしてよい。
 第2.20条:品質部門は、品質に係る全ての事項に関与すること。
 第2.21条:品質部門は、品質に係る全ての文書を適切に照査し、承認すること。
非常に明快であり、QA業務が端的に定義されている。
 ここに、GMP事例集(GMP4-1)にあるように、QAは「品質保証を担う機能として客観性を有」することが必要であり、換言すれば、QAは製造部門やQCに対して第3者的な立場で管理監督する業務であると言える。
 ちなみに、現場(製造部門とQC)は納期達成に向けて、とかくイケイケとなりがちである。これにブレーキをかけるのがQAの役割と言ってもよい。新型コロナ禍の渦中では、社会活動の進め方に関して、アクセル/ブレーキ論がずいぶん論議されたことを思い出すが、QAが現場と一緒になってアクセルを踏んでしまっては、品質保証の体制が崩れてしまうであろう。

3.QAの組織構造

 まずは、製造所におけるQAの位置付けである。大きく2つのタイプがある。仮に、Type AとBとしよう。
Type A:QAが生産部局の1部門として、製造部門やQCと並んで位置づけられる。QA長のレポートラインは、QA長⇒工場長である。
Type B:製造所のQAが製販(本社)のQAの1部門として位置づけられ、生産部局からは独立している。QA長のレポートラインは、QA長⇒工場長+製販のQA長のダブルラインとなる。海外企業では、QA長⇒製販のQA長のラインがメインで、QA長⇒工場長は副次的なドットライン(Dot line、組織図で点線で示される)となる場合も多い。

 QAは現場を第3者的に、客観的に管理監督する必要があり、その意味で言えば、QAが会社組織的に生産部局から独立しているType Bが望ましいと言える。筆者がこれまで接してきた海外の製薬企業はすべてこのType Bであり、国内的にはこれまでほとんどの企業でType Aであったと思われるが、その利点によりType Bも増えてきている。実は筆者が在職した製造所のQA長時代はType Aであり、特にQA業務に制約があることはなかったが、現在はType Bとなっている。
 ここで思い出話を1つ。以前、ある製薬企業のQAの方と2人で製造受託会社の監査を行ったことがある。特段、事前に監査内容を打ち合わせたわけではなく、合同監査とも呼べないものであったが、企業の品質ポリシーというか、社風というか、監査ポイントに両社で共通点がほとんどなく、合同監査は難しいものだとつくづく思ったものである。それはともかく、夕食時には話が弾んだのであるが、聞けばその企業の製造所ではQAがType Aであり、何でも生産最優先でQAがないがしろにされる、QAのいうことをまったく聞かないと、憤っておられた。当の企業は国内の大手であり、少々驚いたものである。
 また、ある製薬企業の製造所でQA長(Type Aである)の職位にあり、また品質保証関連の学会で活躍され、お名前を存じていた方が中途退職されたと聞いた。たまたま旧知の同社生産関係の幹部の方と会う機会があり、尋ねたところ、「あの人の言うとおりにしていると工場が回らない。」とのことであった。Type AにおけるQAの難しさを感じるところである。
 なお、GMP事例集のGMP4-2には、Type Bに関するQ&Aがある。その解説の中で、「本社品質保証部門等に所属する職員による、製造所の「品質保証に係る業務を担当する組織」の業務の兼任は差し支えない。」とあり、ここに「兼任」という文言があるが、違和感がある。Type Bであろうとも、製造所にあってQA職員は「専任」しているはずである。海外の製造所においても、Type BのQAが本社のQAと兼任しているという話は聞いたことがない。

 

 

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