【第3回】医薬品GMPの散歩道 ~いま考えたい品質第一への道しるべ~

QAをめぐる課題(その2):製造所QAの責務と人員の適正数について


1.はじめに 

 昨今の製薬企業の品質問題に関連して、製造販売業者(製販)のQA(品質保証部門)がGQP省令に基づく製造所の管理監督を十分に実施しきれていないことが指摘されている。製造所内においても、製造所のQAによる現場(製造と試験検査部門)の管理監督が適切なのかどうか、注視する必要がある。
 QA(製造所のQA、お断りしなければ以下同じ)が適切な管理監督を実施するための1つの要件がQAの人員数である。QAに人がいなくて・・・、という声はよく耳にするが、この「人」とは、人材であるとともに人員数でもある。
 今回は、QAの人員数という切り口から、QAは何をなすべきか?ということについて考察したい。

2.QA部門人員比率は5%以上?

 一昨年の1月に、「製造所における人員確保の考え方について」なる事務連絡が発出された。日本製薬団体連合会が国内の製薬企業に対して実施したアンケートの結果に基づくものである。その中で、製造所の総人員数に占めるQA部門人員比率として「5%以上」が参考比率、すなわち、この数値をもって人員が確保されているかどうかの確認が求められている。なお、ここでは留意点として、この数値を満たしていることのみをもって人員が確保されていると判断しないように、との但し書きも付記されている。
 そこで、QA部門人員比率「5%以上」である。筆者のこれまでの国内での監査経験によれば、各社のQAの人員比率は6~8%であったので、5%以上というのは、まず現状を反映しているようには思われる。
 しかし、海外の製造所では必ずしもそうではない。海外での監査経験をお持ちの方は経験されていると思うが、QAの人員が結構多いのである。それについて具体的な数値をお示しできないのが残念であるが、ある米国の製造所の例では、製造:QC(試験検査部門):QA の比率がなんと1:1:1程度であった。QAで言えば、人員比率が33%くらいということになろう。なぜこうもQCやQAの人員が多いのか?
 まずQCの人員である。これは製造ラインの工程管理試験、例えば充填量チェックなどを、QCに委託された製造部門の担当者ではなく、QCの本来業務としてQCが自ら実施していることによる。またQA比率が大きいのは、データの信頼性確認のための製造記録と試験検査記録の生データチェックに多大な人員を投入している結果である。
 このように、事務連絡の人員比率5%以上という数値は、あくまで、国内製薬企業を対象に調査したらこうだった、ということに過ぎないのである。海外におけるQAの在り方を参照したものでもない。申し上げたいのは、このような5%以上という「はじめに数字ありき」ではなく、QAは何をなすべきか、という根本的な検討にもとづいて、QA人員の妥当性を考察する必要があるということである。

3.QAは何をなすべきか?

 GMP省令でQAの責務ということを見てみたい。省令では、QA(品質保証に係る業務を担当する組織)や品質部門という文言が数多く見受けられる。また、変更管理や逸脱管理等に関して「あらかじめ指定した者」の規定があるが、この「あらかじめ指定した者」はQAに所属することが多いように思われる。要するに、GMP省令の全般にわたってQAが関与することが求められているのである。従って、その点がQAの責務の最低ラインであると言える。具体的には、GMP省令に規定された次のような業務である。
 QA:品質目標の制定、製品品質の照査、原料等の供給者の管理、製造所からの出荷の管理
 品質部門:品質管理、安定性モニタリング
 あらかじめ指定した者:品質リスクマネジメント、外部委託業者の管理、バリデーション、変更の管理、逸脱の管理、品質に関する情報及び品質不良等の処理、回収等の処理、自己点検、教育訓練、文書及び記録の管理

4.さらに求められるQAの活動

 昨今の製造所におけるGMP違反、不正の防止のために、QAの果たすべき役割がクローズアップされているが、広く品質保証の全般にわたってQAの積極的な取り組みが求められる。以下、筆者の製造所監査の経験も踏まえ、QAのさらなる活動について考察したい。

1)改正GMP省令への対応
 改正GMP省令の公布は2021年4月なので、以来もう満3年になる。今さらではあるが、製造所によっては、なかなか改正GMP省令をはじめとする改正法令等に対応しきれていないところがある。お聞きすれば、「対応は問題ありません。」とおっしゃるのであるが、いろいろと確認してゆくと不備も散見される。例えば、

  • 品質方針及び品質目標が関係者に周知されていない(GMP省令第3条の3第3号)。
  • 製造管理者による製造業者(責任役員等の上級経営陣)への意見申述の手順がない(薬機法第17条第7項、GMP省令第5条第2号)。どういう場合に意見申述する必要があるのか、規定しておく必要がある。
  • 受入れ試験の不適、あるいは出荷不適の処理に関して、回収に係る「あらかじめ指定した者」の照査または承認がない(GMP省令第17条第2項)。
  • 洗浄バリデーションにおける残留物の許容値が、薬理学的・毒性学的評価による科学的データに基づいて設定されていない(GMP公布通知第9条第1項第5号関係、及びバリデーション指針)。製造所としては、製販又は製造委託元、あるいは原薬製造所から薬理学的・毒性学的評価による許容値のデータを入手しておく必要がある。筆者が製販のQAに在職時、数社の製造受託企業からこうした許容値のデータ提供を求められ、提出した経験がある。
  • 製販による原料等の製造所確認(監査等)の情報をその原料等を使用する製造所が情報共有するにあたり、その旨を製販との取り決めで規定していない(GMP公布通知第11条の4第1項第3号関係)。

等々であり、あくまでも一例ではあるものの、上記の不備の例は法令等の規定の本文に直接かかわるものであるのでご紹介した。QAとしてはこうした不備の解消に努めなければならない。なお以下、2)~4)項も実はGMP省令関連なのであるが、重要な要件であるので別項とした。

2)承認書との実態齟齬の有無の確認
 GMP省令第3条の2の関連である。本件は当連載第1回で取り上げたので詳細は避けるが、承認書と製品標準書や製造指図書・手順書等のGMP文書との齟齬だけではなく、これらのGMP文書の内容と製造・試験検査の実際の手順との齟齬について確認することが必要である。後者(GMP文書と実際の手順との齟齬)はQAが第三者的に現場に入らなければ確認できないので、QAのリソースが必要である。海外の製造所や国内でも大手・外資系では、いわゆるラインQAとして、QAが現場に張り付く体制を取っているところが少なくないが、一般の製造所では体力的に厳しいであろう。それならば、QAが抜き取り検査的に現場確認を行うしかない。
 なお、厚労省はすべての後発医薬品企業に対して、新たな自主点検を要請する方針であり、その中には、「実際の手順との齟齬」の確認も含まれていることに注目したい(医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議、本年3月1日)。それを実際の現場確認抜きで、ヒヤリングやアンケート調査のみで安易に済まさないように願いたい(連載第1回)。

 

 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます