プレフィルドシリンジ製剤の基礎からリスクまで【第1回】

はじめに
 プレフィルドシリンジ製剤とは、図1に示すように、あらかじめ注射器(シリンジ)内部に治療に必要な薬剤が充填された無菌製剤の総称である。そして、その市場は2021年には世界市場規模として約54億本のマーケットに成長するものと予想されている。1)


図1 プレフィルドシリンジ製剤


 本連載では、品質保証関連でプレフィルドシリンジ製剤にかかわる方々に、基礎的な知識を提供し、最終的にはそのリスクを原因と共に明らかにする事を目的とする。
 そのため、本連載では以下に記載する順序で解説を行う。
 
   1.特徴
   2.構成と部材
   3.タイプ別分類
   4.法律的側面
   5.リスク


1.特徴
 
 プレフィルドシリンジは言うまでもなく注射剤である。そこでまず注射剤の長所と短所をまとめておく。
 
【長所】
 1)消化器官を通らない。
   そのため消化管から吸収されにくいものや、消化や代謝を受けることで効果が
  なくなるものであっても投与することができる。血中濃度の維持・管理も経口剤
  などに比べて容易である。
 2)直接的に患部に薬剤を投与することができる。
   例えば神経ブロック注射は、神経や神経周囲に注射する。また、関節内注射は
  膝や脊椎の椎間関節などの関節内に注射する。この例のように、患部付近に直接
  薬剤を投与することにより短時間かつ少量で効果が発現する。
 3)睡眠・昏倒など患者の状態いかんにかかわらず投与が可能である。
   例えば、バッグ製剤などでは24時間の連続投与なども可能である。
 
【短所】
 1)投与時に痛みを伴う。
   細い針を用いるなど種々の工夫がなされているが、どのような場合であっても
  針に刺される痛みはある。細い針の場合痛みは少ないが、細い針ほど投与に時間
  がかかるため、独特の気持ちの悪さが続く。また、針に刺されること自体に激し
  い忌避感を示す患者もいる。
 2)副作用が発現しやすい。
   少量で効果が大きいためいわゆる副作用も発現しやすい
 3)いったん投与してしまうと除外が難しい
   吐かせることができない。消化器官を通らないということは長所でもある。
  しかし、同時に誤投与の場合、薬剤を体内から除外する手段がほとんどないこと
  を表している。
 4)体内に直接投与するため、投与されたものに対し人体のバリヤー機能がほとん
  ど働かない。そのため血液に溶けない異物(たとえばガラス片など)が血管中に
  入れば、血管を閉塞し、最悪の場合組織の壊死の原因となる可能性がある。
 5)体内への菌汚染の可能性が常にある。
   上にも記載したように、注射剤の投与の際には人体のバリヤー機能がほとんど
  働かない。そのため、菌汚染された注射剤を投与すると、菌血症を引き起こし、
  それを基にした感染症など様々な障害を引き起こす可能性がある。
   例えば分割使用した脂肪乳剤が菌で汚染され、その薬剤の投与を受けた新生児
   が菌血症を起こし、死亡した例もある。
 
 上記のうち、“1)、2)”は注射剤の宿命ともいえるものであり、注射剤を投与する以上避けられないリスクである。
 一方“3)”は重篤な副作用が伴う薬剤の場合、防ぐことは困難である。しかし、視認性、触感などに差異を持たせれば取り違い事故は防ぐことができる。
“ 4)、5)”は「調剤」が原因となるものなら、「調剤をしない」という選択肢を選ぶことにより防ぐことが可能である。もちろん、バイアル製剤・アンプル製剤であれば、病院内で何らかの調剤行為を行う必要があるため、すべての病院において異物の混入のリスクを避けることは困難である(注)。その点プレフィルドシリンジ製剤は、工場出荷の段階から注射器そのものに薬剤を充填して出荷される。工場の製造工程はGMPによって管理されており、一定以下の菌レベル・異物混入レベルが実現されている。そのため、上記の“4)、5)”のリスクを回避することができる。

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