ラボにおけるERESとCSV【第105回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(75)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ GGGG社 2021/8/30  483
施設:原薬・製剤工

★本査察について
本査察はFDAの下記査察データベースに登録されていない。
通常のGMP査察における指摘事項の有無はこのデータベースに登録され開示されるが、PAI(承認前査察)はこのデータベースに登録されない。そのため本査察はPAIだと思われる。


米国へ新薬等の承認申請を行うとPAIが実施され、PAIに合格しないと承認審査が開始されない。そのため、この企業は承認審査が遅延無く開始されるよう、コロナ禍にもかかわらずFDAに対し
PAIの実施を求めたのではないかと推察している。

なお、前号(連載第104回 )のPAIを実施した2名のFDA査察官が本査察も実施した。2名ともPh.Dであり、1名は品質保証が専門で、もう1名は化学者(Chemist)である。また、以下にて紹介するObservation 2の原文には、指摘対象の器機やシステムの名称や供給者名が記載されており、指摘された状況を推測しやすい。ただし、本記事においてそれらの名称は伏せている。

■Observation 2
電子データ収集システムおよびプロセスコントロールシステムの手順管理が不十分である。特に、 

■Observation 2 a)
温度データロガーなどからデータを収集するシステムに対する指摘である。このシステムは原薬を保管する設備の(温度マッピング?)調査やプロセスバリデーションにおいて使用されている。

指摘事項:
① ノートPCに実装されたデータ収集ソフトウェアがバリデートされていない
② システムにアクセスするのに共通のユーザー名とパスワードを使用している
③ データレビューにおいてテスト結果の最終プリントアウトしかレビューしておらず、オリジナル電子記録を確認していない。


★解説
国内でよく使用されている汎用の温度ロガーシステムにおける指摘である。指摘されたシステムは製造設備に常設されたものではなく、承認申請に係わる器機の適格性評価やプロセスバリデーションにおいて使用されたもののように思える。

システムの概要:
複数のデータロガーにおいて温度がトレンド記録される。複数のデータロガーにおいてトレンド記録された温度データはノートPCに実装したデータ収集ソフトウェアへ吸い上げることができる。

データ収集ソフトウェアの概要:

  • 機能:
    データロガーの設定、デ
    ータの吸い上げ、グラフ化などを行う
  • ソフトウェアカテゴリ:
    カテゴリ3
    (インストーラーを無償ダウンロードし、そのままPCへ実装する)
  • ソフトウェアの実装:
    ユーザー自身がPCへ実装(IQ、OQはユーザー自身で行う必要がある)
指摘①    ソフトウェアがバリデートされていない
承認申請に係わる器機の適格性評価やプロセスバリデーションにおいて使用するシステムや器機であっても、その適格性評価やバリデーションが求められるということである。ユーザー自身で実装するカテゴリ3の器機やシステムのバリデーションは以下の様に行うとよい。
 
1)供給者監査を実施し、設定によらずに実現される標準機能は供給者において検証済みであることを確認しその証拠を記録する。
(書面調査で確認するのが効率的)
2)上記1)の結果をトレーサビリティマトリクスにまとめDQとする。
3)供給者が検証したことを確認できなかった標準機能はユーザーがテストしOQ記録とする。
4)設定により実現される機能はユーザーがテストしその記録を残す。設定の記録はIQ、動作検証の記録はOQにおいて記録する。
5)上記3)4)の結果をトレーサビリティマトリクスに追記する


また、複数のデータロガーの記録がデータ収集ソフトウェアへ正しくデータ収集されることを使用に先立ち確認しておく必要があるのはいうまでもない。例えば、データロガーのポイントIDなどの識別子がデータ収集ソフトウェアに正しく表示され、そのポイントIDのもとデータが正しく表示されるかを確認する。このような確認は通常行っていると思われる。その確認を簡潔にまとめて検証記録(バリデーション記録)としておくとよい。バリデーションを難しく考えず、検証した記録とデータをバリデーション記録と位置づけておけば、バリデーションしていないとの指摘を受けることはないと思われる。

厚労省令第1号 薬機法施行規則 第43条「申請資料の信頼性の基準」に従い実施する薬効薬理試験などにおける事例を以下に紹介する。

試験事例の概要:
いくつかの測定器とコンピュータを組み合わせたシステムを新たに構築し、動物における薬効薬理を試験する

システムの準備:
① 使用する測定器(カテゴリ3)の適格性を校正やメーカ点検により確認する
② システムを構築し必要な設定を行い以下などの記録を残す(IQ)
  システム構成、器機やコンピュータの番号とバージョン、各種設定
③ システムの動作を確認する(OQ)
④ 試験計画に従い試し試験を行う(PQ)
⑤  上記をバリデーション記録とする
試験が終了したら、システムを解体する。

このバリデーション記録があれば同等システムを再構築できるので、追加試験や再試験を初回と同じ条件で行うことができる。

製造設備の適格性確認やプロセスバリデーションにおいて使用するシステムに対しても、「申請資料の信頼性の基準」における上記事例と同様の対応が必要であると考える。

指摘②    共通のユーザー名とパスワードを使用している
このシステムは適切に権限設定したアカウントをユーザー個人ごとに付与できないのかもしれない。そのような前提で解説を行う。


データロガーの設定;
以下の様なデータロガーの設定はデータ収集ソフトウェアから行う。

  • サンプリング周期
  • 動作モード など

適切に権限設定されたアカウントをユーザー個人ごとに付与出来ない場合、これらの設定を改変から保護することができず査察において指摘されることになる。その対応として、重要な設定が改変されず維持されていることを使用前あるいは適切な頻度で確認し、その結果を記録することなどが考えられる。

指摘③    プリントアウトしかレビューしておらず、オリジナル電子記録を確認していない
この指摘において:
  • プリントアウトはデータ収集ソフトウェアから出力したもの
  • オリジナル電子記録は、データロガー中の電子記録ではなく、データ収集ソフトウェアへ吸い上げた電子記録
を意味しているように思える。


一方、以下の条件であれば、オリジナル電子記録を確認する必要は無いように思える。

  • データ収集ソフトウェアへ吸い上げたデータロガーのデータが改変や削除から保護されていることを検証できている
  • データレビューに必要なパラメータがプリントアウトに含まれている

ただし、データ収集ソフトウェアへ吸い上げたデータロガーのデータが改変・削除から保護されていることを検証できない場合は、改変・削除が不可能な各データロガー中のデータをレビューにおいてシステムへ読み込んで確認することになり、多くの労力が必要になる。

プリントアウトだけでデータレビューしていると、査察官は反射的に「オリジナル電子記録をレビューしていない」と指摘する可能性がある。上述したように、プリントアウトによるレビューであってもデータインテグリティを保証出来る場合がある。そのような場合、査察官と運用について十分にディスカッションすることをお薦めする。

 

 

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