業界雑感 2017年4月

2017/05/02 その他

熊本地震から1年が経過した。地震では4万棟以上の建物が全半壊、今も4万4000人以上が仮設住宅での暮らしを続けていて、被災者の生活再建はまだ道半ばとのこと。自身も被災した阪神大震災から22年が経ち、神戸の街はそんな跡形も意識して探さなければ見えないくらいになっている。人々のパワーを信じて一日も早い復興を祈るばかりである。

阪神大震災や東日本大震災の時問題となるのが、医薬品のサプライチェーンの脆弱性である。2000年代に入ってBCP(Business Continuity Plan: 事業継続計画)について議論が持ち上がり、当面の対応として製品在庫水準を2~3ヵ月分上積みしてきたおかげで、熊本地震の際には品切れを免れた、という製品もあると聞く。

医薬品は、使用期限が通常の場合2~3年あり、数か月分の在庫を持っていても使用期限切れで廃棄となるリスクは低いので、ある程度の在庫を持ちながらサプライチェーンを維持することが一般的、またその嵩のわりに単価が高いので輸送や保管にかかる費用の割合が小さいことから、グローバルに展開している製品であったとしてもその製造工場はせいぜい世界中で2か所程度。ローカル製品になるとよほどの物量がない限り、ローカル内の1工場で製造されているのが常だから、その工場での製造ができなくなると、製品の供給は止まる。他の工場で製造出荷をするにはバリデーションから変更承認まで相当の期間を要するため、結局は元の工場を復旧し生産を再開させることのほうが早道となる。 

BCPで議論されるのは地震の他に、風水害、火災、テロ、設備事故、感染症など非定常のリスクだが、サプライチェーンのリスクはそれだけではない。特にその多くを中国・インド・韓国、いわゆる中印韓からの輸入に依存している原薬の調達については、カントリーリスク、品質リスク、ビジネスリスクといったリスクを定常的に抱えている。カントリーリスク、品質リスクについてのリスク要因はさまざまだが、従来からの構図に大きな変化はない。しかし、ビジネスリスクについては少し考え方を改めていくことが必要かもしれない。後発医薬品比率80%を目指す、としている現在の薬事行政下では、特許が切れジェネリック医薬品が登場すると先発長期収載品は物量が1/5に減少、原薬についてもオリジナル原薬の使用量が同比率で減少するわけだから、そこに価格上昇のリスクが生じるのである。さらに原薬メーカーから供給を停止されるというリスクも想定だけでなく、長期収載品のサプライチェーンを扱ってきた中では現実に経験してきている。原薬のメーカー変更には最低でも2~3年の期間が必要で、加えて元の原薬と同じものが確保できる保証があるわけでもない。技術移転や品質評価にも相当のコストがかかるので、できれば避けたいテーマである。
 
オーソライズドジェネリック(AG)の原薬は基本的にオリジナル原薬を使用する。後発品比率が増えても先発長期収載品とAGとでオリジナル原薬を使用するのでその所要量はある程度確保でき、ビジネスリスクは軽減される。その分ジェネリック原薬はさらに所要量が減るので供給停止リスク、価格上昇リスクが高まるということは容易に想像できる。

ジェネリックメーカーは、AGの登場で梯子を外され一時の勢いがなくなってきているようにも思える。一方で、先発メーカーは長期収載品を売却承継し、バイオ薬や抗がん剤等の新薬開発への集中度を高めるという戦略に転換している。遅かれ早かれ長期収載品ビジネスからの脱却を目指すのであれば、先発メーカーにはオリジナル原薬をジェネリックメーカーにも開放し、原薬にかかるビジネスリスクの軽減に資する、くらいの度量があってもいいように思う。

※この記事は「村田兼一コンサルティング株式会社HP」の記事を転載したものです。

執筆者について

村田 兼一

経歴 村田兼一コンサルティング株式会社代表取締役。
1978年藤沢薬品工業(現アステラス製薬)入社。注射剤製造、無菌バリデーション技術開発、FDA対応、基幹システム(SAP)開発等に従事後、生産本部にて中期戦略企画、工場分社化推進・合併準備委員会に携わる。合併後のアステラス製薬では、戦略企画の後、製造委受託の推進を担当する。
2012年に退社し、村田兼一コンサルティング株式会社設立。工場の原価をはじめとする計数マネジメントを中心に、SAP開発を含むサプライチェーン全般の管理・改善を専門とする。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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