再生医療等製品の品質保証についての雑感【第44回】

2022/12/09 再生医療

水谷 学

バリデーション設計の考え方について雑感を述べる。

バリデーション設計の考え方 (0) ~製造できると思ってしまっている件について【閑話】

はじめに
 次回より数回にわたり、バリデーション設計の考え方について雑感を述べていきたいと考えていますが、その前に、今回は閑話として標題のお話しをします。細胞加工の作業を熟練の作業者レベルで機械化することは非常に難しいです。では、熟練の作業者は、どのように製造が出来ているのでしょうか。本来、製造管理者がその機序を理解できていなければ、機械化はおろか、バリデーション設計の議論すらできないはずなのですが...

● 製造工程と工程パラメータ

 細胞加工製品の製造システムの構築を推進していると、以下のような、変更管理時において生じる課題が議論になることがあります。

  • 特定の人しかうまく培養できないがその理由がわからない
  • 施設を新しくしたら細胞がうまく培養できなくなった原因がわからない
  • 機械操作が熟練者と同じようにうまく培養できない(ばらつき以前にそもそも質が低い)
  • 装置を導入したがうまく培養できなった時にどう対応してよいかわからない

 これらは実施する工程作業が、「細胞の気持ち」によってどのような影響が生じているかを定量化していないことが原因であると考えます。具体的には、培地交換や継代作業における作業者の動作から生じる出力(振動や衝撃などの加速度変化)が、培養プロセスにおける(培養容器を介した)細胞に対するどのような入力になるのかという、工程パラメータ群(PPs)の理解とその数値化です。
 一般的に、機械装置ではPPsを理解して入力しなければ動作しないので数値化は必須ですが、手操作の場合、作業の質を定性的に評価することで運用が可能であるのでPPsの定量化を省略することが多くなると思います。一方、細胞製造において留意すべきは、それらのPPsから生じる出力が細胞の品質に与える影響です。したがって、たとえ手操作であっても、その出力が細胞に与える影響を定量的に評価することが不可欠であると考えます。
 ここで重要なのは、手操作のPPsと機械操作のPPsそれぞれの評価ではなく、その作業(手順)において細胞の品質に与える影響として理解することです。すなわち、製造工程では、単に適切に目的(培地交換、継代等)が達成できていることは工程の再現性を担保するために重要ではなく、それらのPPsによって生じる、どのような出力制御が培養プロセス(製品)の安定に影響するか、細胞に対するどのような入力が細胞培養を失敗させるかの理解が重要となります。製造管理者は、そもそもこれらの理解を有していなければ、手操作、機械装置に関わらず、上記のような課題に対応することが難しいと考えます。


 

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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