再生医療等製品の品質保証についての雑感【第43回】

細胞の保管・輸送 (3) ~細胞加工製品のチャネル【Perspective】 その2

はじめに
 2014年より薬機法が施行され、承認された再生医療等製品(細胞加工製品)のうち、同種(健常ドナー組織)を由来とする製品は、現時点(2022年10月現在)では、2015年に承認されたテムセル®HS注(以下、テムセル)と、2021年に承認されたアロフィセル®注(以下、アロフィセル)のみとなります。いずれもヒト間葉系幹細胞を構成細胞とする製品(原料の由来組織は異なる)ですが、その製造管理および製品管理の手順は大きく異なっていると認識します。そこで本稿では、国内で2例のみの上記同種由来製品に関して、特に原料、中間製品管理の考察を含む、製品のチャネル構築について雑感を述べます。前回同様、あくまでも筆者の妄想ですので、笑ってご高覧いただけますと幸いです。

● テムセルとアロフィセルの概要
 両製品の詳細は、各々で添付文書あるいはCTD文書をご参照いただきたいですが、以下に要件を記します。テムセルは、造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病を適用疾患として、骨髄液より単離した細胞が培養された、間葉系幹細胞を主として構成する培養細胞群の製品です。製品は、点滴バッグに充てんした細胞懸濁液が凍結状態で保存する製品形態で、1バッチの製造で数百患者分の製品が準備・保管され、使用時に1患者分(1週間に2回の点滴静注×4週間)の製品を専用の輸送容器(液体窒素容器)に移し、医療機関へ搬送します。輸送容器は、治療の期間(約1ヶ月)を通じて、搬送した製品を保管できます。アロフィセルは、非活動期又は軽症の活動期クローン病患者における複雑痔瘻を適用疾患として、皮下脂肪より単離した細胞が培養された、間葉系幹細胞を主として構成する培養細胞群の製品です。製品は、4本のバイアルに1患者分の細胞懸濁液を分注した製品形態で、使用時に、予め準備された細胞ストック(種細胞)より、1患者分の製品が準備(受注製造)されます。製造後、そのまま輸送容器(非凍結)で医療機関へ搬送し、輸送時間を含め72時間以内に使用(局所投与)します。

● 両者の共通点と相違点
 両者の共通点は、ドナー(原料)組織の処理とプライマリ(初代)培養が計画的に実施されることです。自己由来の細胞加工製品では、患者がエントリーするまで原料組織を入手することはできませんが、同種由来では、ドナー組織は予め準備し、ストックすることが可能です。一方で、同種由来細胞製品は、適切なドナースクリーニングとウインドウピリオドの確認、および原料細胞のウイルススクリーニングなどが必須となるため、臨床用に使用できることを確認するまでに時間がかかります。また、最終製品の同等性を確保するために、予め、原料細胞の発現形が品質規格に適合することや、使用する培地に適切に馴化できることを確認しておくこと(ロットチェック)が必要です。そのため、テムセルとアロフィセル、いずれにおいても、原料組織の受け入れから初代培養を終えるまでの手順は、製品製造に必要なストックを確保できるように、予め計画的に準備が進められます。
 アロフィセルの製造では、初代培養が行われた細胞群を分注・凍結し、種細胞としてストックします。(この段階で長期的な保管が可能です。)そして製品の発注(患者ごとの使用)に応じて、個別(テーラーメイド)にて、種細胞を解凍して増幅工程を実施し、製品を準備します。製品は、製造後すぐに出荷し、非凍結で、72時間以内に患者に使用します。
 対して、テムセルの製造では、初代培養後に引き続き増幅工程が実施され、凍結細胞製品として、複数の製品(バッグ)が同時に準備されます。製品は、超低温(-150℃以下)で管理され、長期間の保存が可能です。出荷時は、製品の発注に応じて、複数回の投与分(1患者で使用を予定するバッグ数)が専用の液体窒素(輸送)容器に積載され、投与を実施する医療機関に運ばれたのち、1バッグずつ使用します。
 両者の相違点のポイントは、同種由来細胞加工製品において、予めストックされた複数の凍結細胞製品の取り扱い管理(テムセル)と、発注に応じた受注製造管理(アロフィセル)という選択肢について、将来的な製品の流通において、どちらを選択することが適切であるかを、製品(適応疾患や投与方法)ごとに検討・評価する機会を与えてくれていると、筆者は考えます。本標題の前回(第36回)でお話ししたような、製品の流通量が年間で1万件程度を超える市場で、多くの製品が病院ではなく各地のクリニックに輸送されると想定して、製品の管理が、超低温(レディメイド的なロット製造管理)の場合と、非凍結(テーラーメイド的な1品ごとの製造管理)の場合で、機材や品質管理に関わるコストなどを含め、どちらの運用が適しているのか、製品のチャネルを適切に構築する上で、非常に重要な確認事項であると考えます。
 製品の運用では、チャネル構築の可能性を考慮し、長期保存が可能な凍結細胞製品の形態がより優れているイメージがありますが、以前(第26回:コールドチェーンとGDP)にてお話しした通り、実際の凍結細胞加工製品の品質構築および超低温下での保管・輸送管理は非常に煩雑です。ここで、2021年に新たに承認された製品が、出荷判定後の超低温管理を回避した点は、非常に興味深いと認識します。種細胞の凍結保管・輸送は、細胞バンク(MCB/WCB)と同様に、B to Bで実施されるので、凍結製品と比較して品質管理が容易であると考えます。天下の武田薬品がこのようなシステムを採用するのは、将来の細胞加工製品の流通を見通した思惑があると深読みをしそうですが、実際のところは、筆者にはわかりません。
 レディメイド的運用かテーラーメイド的運用かの最適解は、製品ごとでのケースバイケースが前提と考えますが、例えば、バッグで凍結保存し、生理食塩液で希釈して、そのまま点滴静注できる投与形態であれば、前者(凍結細胞製品)とすることが優位である可能性が高いですし、局所投与においても、細胞懸濁液をそのままシリンジ等に移し替えるだけならば、バイアル等で凍結状態にすることは問題無いと想定できます。他方、細胞源によって、凍結時の細胞劣化(生存細胞数の減少)が激しい場合や、凍結状態から起眠した細胞の有効性が培養状態と比較し著しく劣る場合、投与時に凍結保護剤の残留が好ましくない場合、あるいは凍結が困難な組織・臓器への調製が必要な場合など、特定の細胞加工製品の製品設計において、期待する製品形態(保存条件)やチャネルが必ずしも達成できない可能性を理解しておく必要があります。

 以上より、現時点で承認された2製品は、いずれも間葉系幹細胞より構成される製品であるにも関わらず、製品に関わる物流(中間製品あるいは製品の管理)や製造管理の考え方(期待)が大きく異なります。同種由来細胞加工製品のチャネル設計は、未熟であり、現状でこれらが最適解でもなく、今後も製品(流通設計)ごとに、最良を導くための模索が必要だと筆者は認識します。また将来的に、ES/iPS細胞由来製品では、より複雑な物流管理を含む製造管理が要求されると考えます。


 

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