GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第53回】

2022/02/04 品質システム

今回もQA活動について引き続き解説する。

QA活動

1.使わないSOP

 ヒューマンエラー発生時に、教育訓練不足を嘆く施設は多い。特に、SOPからの逸脱の場合、教育訓練不足を原因として問題解決させることは多い。しかし、ヒューマンエラーを起こした作業者によると、以前から行っていたとか、そのように指導を受けていたなどと聞くこともある。手順書を確認していなかったとか、手順書を十分理解できなかったとかの話にはなるが、本当にそのSOPは必要だったのだろうか。SOPに従い、指図通りに作業を行うことは、GMPの基本である。しかし、作業の都度、SOPを読まなければならないような作業者が行う工程に心配はないのだろうか。ベテランになればなるほど、そのプロセスを熟知しているだろう。その都度、SOPを読んでいたら、作業が非効率になってしまい、安定供給なんてままならないのではないだろうか。都度都度、SOPを読まないと作業ができない新人にその作業を任せるのは不安である。GMPがSOPを要求するのは、「誰でもその作業が行えるため」と説明する方もいるが、私はその考えは間違いだと思う。SOPは、そのプロセスを確立するためであり、そのプロセスに間違いがないよう検証されていることを示すものである。当然、その作業するにあたり、教育訓練を受け、適切に作業を行えるかどうか判定されなければならない。その判定を受けたものが、いちいち、SOPを見ながらしか、作業ができないなら、その作業者は、その作業を理解していないと思われる。熟知した作業者でもミスをすることはある。他の品目と困惑して間違えやすい点を指図書に明記し、作業者は指図書のみ確認すればよい状況を作らなければならない。その上で、新人への教育プログラムとなる手順書等を整備し、教育訓練そのものを新人、一人で作業ができる者、教育指導ができるベテラン等レベル評価を行わなければ、実効性のある教育訓練は成り立たない。また、SOPや指図の位置づけも明確にし、効率的な作業を行える体制が必要である。
 製造手順などのSOPを製品標準書ごとに作成している製造所は多い。しかし、そのSOPの利用度を聞くと、あまり利用されない状況である場合がある。ヒューマンエラーが起きたとき、SOPを確認しなかったからと原因分析されているケースで、その作業ごとにSOPを確認していたかを聞くと、そもそも、そのSOPはあまり利用せれていなかったことが判明することが多い。なぜ、そのSOPが利用されていなかったかを尋ねると、その作業自体を作業者が熟知しており、その都度、読まなくても作業を行うことができたのである。では、なぜそのエラーが起きたかというと、他の品目と勘違いなどによることが多い。同じ製造ラインや製造装置で、何品目も製造されることが多い中、その工程での工程管理値などの設定値やパラメータなど、品目により異なる点を示すことが重要であり、個々の品目の製造手順書にすべての操作方法を同じように記載する必要はない。かえって、同じ内容を多くの文書に記載することで、エラーを引き起こすことになる。製造ラインや装置の操作手順書をラインや装置ごとに作成して、個々の品目の製造手順書には、そのラインや装置での工程管理値としての設定値やパラメータを記載するべきである。その方が作業者にとっても、品目により製造手順の異なる点が明確になり、エラーを起こすことを減少させることになる。
 ヒューマンエラーを減らすためには、まず、使うSOPを持つことにある。文書の整理をする時、使わないSOPを整理することより、SOPを使いやすくすることを優先しなければならない。そして、重要なことは同じことを二つの文書に書かないことである。

2ページ中 1ページ目

執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁。1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)締結の際のEU調査、2005年製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
 ・平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
 ・平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職後、医薬品原薬輸入商社、製薬企業、コンサルティング企業で品質保証やGxPコンサルタント業務に携わる。2025年6月よりGMPコンサルタントとして独立、現在に至る。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

91件中 1-3件目

コメント

この記事へのコメントはありません。

セミナー

2025年7月2日(水)10:30-16:30~7月3日(木)10:30-16:30

門外漢のためのコンピュータ化システムバリデーション

2025年8月21日(木)10:30-16:30

GMP教育訓練担当者(トレーナー)の育成

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

株式会社シーエムプラス

本サイトの運営会社。ライフサイエンス産業を始めとする幅広い産業分野で、エンジニアリング、コンサルティング、教育支援、マッチングサービスを提供しています。

ライフサイエンス企業情報プラットフォーム

ライフサイエンス業界におけるサプライチェーン各社が提供する製品・サービス情報を閲覧、発信できる専門ポータルサイトです。最新情報を様々な方法で入手頂けます。

海外工場建設情報プラットフォーム

海外の工場建設をお考えですか?ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアを中心とした各国の建設物価、賃金情報、工業団地、建設許可手続きなど、役立つ情報がここにあります。

※関連サイトにリンクされます