GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第51回】

2021/12/03 品質システム

QA活動について。

QA活動

1.なぜ「品質部門は、製造部門から独立していなければならない」1)のか?
 私の子供たちが少年野球に勤しんでいた頃、チームの監督からコーチとして手伝ってほしいと誘われた。私自身野球の経験がなく、コーチをするなら野球のルールを学びたいと藤沢市野球協会主催の審判員養成研修を受けた。研修を受けると協会の少年部審判員として、春、夏、秋の市大会の審判をする羽目になる。少年部の審判員は各少年野球チームのコーチ等として活躍している方々のボランティアである。そこで、規定されているわけではないが、暗黙の了解として、自分が所属しているチームの試合の審判は行わないことになっていた。少年野球の試合でも、子供たち本人だけでなく、チーム関係者も真剣である。特に、試合の応援に来る父母の応援は迫力がある。そのような状況の中で、際どいプレーが多くある。ビデオ判定もない中で、アウトセーフのジャッジはどちらをしてもそれが正しいか間違いかどちらも観衆の目は厳しい。もし、自分のチームの試合ならば、観衆の目はそのジャッジに対して疑いの目が向けられる。そのジャッジの真偽に関わらず、そのジャッジの信頼を損ねることになる。審判員は常に公正で中立でなければならないのである。もし、自分の所属チームの試合の審判をしたなら、その審判員に対して、少なくとも相手チームは疑いの目を向ける可能性があるわけである。そんな審判員のもとでは試合は成立しない。
 品質部門は、QCならば、試験検査という判定を行わなければならない。QAも出荷可否判定や変更管理や逸脱管理、自己点検等において多くの評価業務がある。「品質部門は、製造部門から独立していなければならない」理由は、その判定が公正なものでなければならないからである。データねつ造や改ざんが製造部門からの指示によるというわけではない。しかし、独立していなければ、その判定が信頼されないものになってしまい、疑いの目が向けられることになる。査察官や監査員が疑わなければいいという話ではない。大切な点は、QAスタッフ、QCスタッフ自身が自信をもって判定できなければならないということである。周りから疑いの目の中で判定するのは心理的ストレスであるはずである。自分の行為が正しいという自負を持って業務を行う環境が何より大切なのである。
 「品質部門は、製造部門から独立していなければならない」と明記されている法令は、GMP省令以外にはない。世界的にGMPは「品質部門は、製造部門から独立していなければならない」ことを求めている。多くの食品、自動車、家電等の製造業で品質部門は設置されているが、法令で独立を求めてはいない。医薬品製造業において、「品質部門が独立していなければならないこと」が法令で定めていることは、医薬品製造業における品質部門が何より重要な点であることかがお判りいただけると思う。
 多くのGMP違反で品質部門の独立が適切にされてなく、データの改ざんやねつ造を招いたと言える。また、品質部門のスタッフが自らの判定そのものに自信が持てる状況になく、社内の体制への不満から内部通報に至ることも多いと思われる。経営陣は、トップダウンではなく、各々の作業者が自信をもって業務を行える企業体質を作り、ボトムアップを図らなければならない。現場が悪い、経営陣が悪いと責任を擦り付けてばかりでは、適切な品質システムは構築できない。経営陣から従業員一人一人が自らの業務に自信をもってあたれる環境こそがクオリティカルチャーの浸透につながる。


 

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁し、1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍した。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)の締結の際のEUの調査、2005年の製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職し、医薬品原薬輸入商社であるコーア商事株式会社で、品質保証部長として国内管理人としてのGQP取決め及び医薬品製造業としての GMP管理を統括した。2015年から株式会社ファーマプランニングにて、GxPコンサルタント業務に携わる。2017年高田製薬株式会社に入社、大宮工場の製造管理者、品質統括担当参事を経て、2021年より生産本部顧問に就任。同年より中間物商事株式会社品質保証部部長として勤務。
2021年11月より、共和薬品工業株式会社鳥取工場品質保証部長となる。
2022年4月からGMPコンサルタントとして独立したが、2023年2月硬膜動静脈瘻に疾病し、言語障害となった。退院後、自宅にてトレーニングし、完治。8月にネオクリティケア製薬株式会社品質保証部に入社、従来通り活動をしている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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