GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第51回】

QA活動

1.なぜ「品質部門は、製造部門から独立していなければならない」1)のか?
 私の子供たちが少年野球に勤しんでいた頃、チームの監督からコーチとして手伝ってほしいと誘われた。私自身野球の経験がなく、コーチをするなら野球のルールを学びたいと藤沢市野球協会主催の審判員養成研修を受けた。研修を受けると協会の少年部審判員として、春、夏、秋の市大会の審判をする羽目になる。少年部の審判員は各少年野球チームのコーチ等として活躍している方々のボランティアである。そこで、規定されているわけではないが、暗黙の了解として、自分が所属しているチームの試合の審判は行わないことになっていた。少年野球の試合でも、子供たち本人だけでなく、チーム関係者も真剣である。特に、試合の応援に来る父母の応援は迫力がある。そのような状況の中で、際どいプレーが多くある。ビデオ判定もない中で、アウトセーフのジャッジはどちらをしてもそれが正しいか間違いかどちらも観衆の目は厳しい。もし、自分のチームの試合ならば、観衆の目はそのジャッジに対して疑いの目が向けられる。そのジャッジの真偽に関わらず、そのジャッジの信頼を損ねることになる。審判員は常に公正で中立でなければならないのである。もし、自分の所属チームの試合の審判をしたなら、その審判員に対して、少なくとも相手チームは疑いの目を向ける可能性があるわけである。そんな審判員のもとでは試合は成立しない。
 品質部門は、QCならば、試験検査という判定を行わなければならない。QAも出荷可否判定や変更管理や逸脱管理、自己点検等において多くの評価業務がある。「品質部門は、製造部門から独立していなければならない」理由は、その判定が公正なものでなければならないからである。データねつ造や改ざんが製造部門からの指示によるというわけではない。しかし、独立していなければ、その判定が信頼されないものになってしまい、疑いの目が向けられることになる。査察官や監査員が疑わなければいいという話ではない。大切な点は、QAスタッフ、QCスタッフ自身が自信をもって判定できなければならないということである。周りから疑いの目の中で判定するのは心理的ストレスであるはずである。自分の行為が正しいという自負を持って業務を行う環境が何より大切なのである。
 「品質部門は、製造部門から独立していなければならない」と明記されている法令は、GMP省令以外にはない。世界的にGMPは「品質部門は、製造部門から独立していなければならない」ことを求めている。多くの食品、自動車、家電等の製造業で品質部門は設置されているが、法令で独立を求めてはいない。医薬品製造業において、「品質部門が独立していなければならないこと」が法令で定めていることは、医薬品製造業における品質部門が何より重要な点であることかがお判りいただけると思う。
 多くのGMP違反で品質部門の独立が適切にされてなく、データの改ざんやねつ造を招いたと言える。また、品質部門のスタッフが自らの判定そのものに自信が持てる状況になく、社内の体制への不満から内部通報に至ることも多いと思われる。経営陣は、トップダウンではなく、各々の作業者が自信をもって業務を行える企業体質を作り、ボトムアップを図らなければならない。現場が悪い、経営陣が悪いと責任を擦り付けてばかりでは、適切な品質システムは構築できない。経営陣から従業員一人一人が自らの業務に自信をもってあたれる環境こそがクオリティカルチャーの浸透につながる。


 

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