医薬品工場建設のノウハウ -プロジェクトの成功に向けて- 【第6章-3】

詳細設計コーディネーション

詳細設計コーディネーションのゴールは、「建築、建築設備、生産設備などの関係する各カテゴリをつなげて、うまく機能する施設を作ること」である。こう書くと基本設計の段階でも言えることでは?と指摘されそうだが、ゴールとしてはその通り、これまでの段階でも言える共通のゴールである。ただし、詳細設計以降は建築・設備各社が工事・製作に向けて詳細な設計を詰めていく中、このゴールに向けて、各社を統合した具体的な活動となってくる点がこれまでの段階と異なる。詳細設計段階では調整するための「図書をつくり」、それをツールに「調整し」、調整した内容を「各カテゴリで合意する」ことが具体的な活動や目標となる。
詳細設計を始める段階、つまり基本設計を終えた段階では、既に発注者の要求事項がある程度形に落ちており、図面化されている。その中で、詳細設計では次の工事・製作に進める様により詳細な仕様を詰めていくのだが、その詳細の詰めの中で、各カテゴリ内部のみではなく“カテゴリ間の取り合いをどうするのか”という視点が具体化してくる。それを調整するのが詳細設計コーディネーションである。
詳細設計コーディネーションはこの取り合い一つ一つを調整する細かな、地道な業務の積み重ねであるが、上手く進められればプロジェクト遂行への功績は大きい。(…はずだが、上手く進めば当たり前と思われ、その苦労は日の目を見ないことが多い。ただ、おざなりに行うと後工程の工事段階で「なんでこんなことになっているんだ!」と不名誉なスポットライトを浴びることになる。)詳細設計コーディネーションの意義は工事や製作に入る前に、問題を洗い出して解決を図れることにある。工事や製作に入ってからの問題が発覚することはスケジュール、コストに多大な影響を及ぼす。工事や製作に入る前(=図面の段階)に調整を行っておくことで、工事段階の問題発生を最小限に留め、コスト、スケジュールへの影響を最小限にすることができるのである。詳細設計コーディネーションにはマネジメント側、工事各社とも労力がかかるが、皆に有益であることを理解していただき、取り組んでいただきたい。

詳細設計コーディネーションの手順は、単純にすると3つである。
 ①    取合い区分を確認する。
 ②    調整に関して運営ルールを決める。
 ③    上記を管理・運営する。

手順① 取合い区分を確認する。

取合い区分に関しては、各カテゴリ各社が参画する前の引合段階から関わってくる。どの範囲がどのカテゴリの所掌なのか、引合時に工事区分表、役務区分表と言ったもので謳われているべきものだが、最終的に各カテゴリがどの範囲を役務として契約を結んでいるかを把握しておく必要がある。この区分が土台となって調整が進む。また、カテゴリ間の調整の前に再確認し、細部の取合い、例えば各生産機器への配管接続作業はどのカテゴリで行うか、壁開口に設置する機器は設置後のシール作業はどこが行うか、などで抜けや重複がないかを確認しておくことが必要である。完成の姿までを具体的にイメージしておくことが必要で、経験が求められる作業でもある。重複や抜けは予め関係カテゴリ間で調整してコストも含めて合意しておくことが望ましい。


手順② 調整に関して運営ルールを決める。

カテゴリ間での調整を行う「会議体」および「図書」の2つをキーとして運営・管理していく。
会議体」は関係カテゴリ各社が一同に集まって行う「調整会議」と呼ばれるものである。コンストラクション・マネジャーはこの会議体のルールを作り、カテゴリ各社および発注者の参加・協力を求め、会議内で調整を推し進める立場にある。
調整に用いるツールとして「図書」がある。図書の種類は様々な形態のものがあるが、ここでは『総合情報図』や『総合図』と呼ばれる各カテゴリの要素を一つの図面に重ね合わせたものを紹介する。この図面の重ね合わせはデジタルデータとして図面を作成することが当たり前となった時代だからこそ実現する手法である。近年では三次元(3D)図面の技術も進んできており、一定規模以上の建築物の官庁申請でカテゴリ毎の3次元モデルの作成が必要となる国(例えばシンガポール)では、設計段階から、上記『総合情報図』や『総合図』の役割を持つBuilding Information Modeling(BIM)を活用して干渉確認や仕上がりイメージの確認などを行う事が一般的になってきている。一方、日本では二次元(2D)図面での文化が根深く、2D図面が圧倒的に多いこと、図面の次元に関わらず本質的な問題は変わらないことから、3D技術を利用した調整は別の機会に預け、2D図面を用いた調整を本資料では念頭に置いている。

調整に用いる「図書」は形を示した平面や立面などの図面ばかりではない。エクセルなどのスプレッドシートを用いた『ユーティリティサマリー』という表も重要で、ユーティリティの内容の調整に用いる。

 


手順③ 上記を管理・運営する。

 

上記の運営ルールを決めて「会議体」および「図書」の管理・運営がスタートするが、「会議体」や「図書」は一回切りではなく、必要に応じて何サイクルも回して詳細設計が詰められていく。

 

 

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