再生医療等製品の品質保証についての雑感【第22回】

2021/02/12 再生医療

水谷 学


執筆者関連セミナー
再生医療等製品の品質確保と工程バリデーション・ベリフィケーションのポイント
~GCTP/細胞製品の特質を踏まえた品質保証のあり方とは~

 


はじめに
 前回までで、再生医療等製品製造のための運用とプロセスシミュレーションテストまで一回りをお話ししましたので、本稿からしばらくは、無菌製造の構造設備設計に関わるそもそも論の考え方(一丁目一番地)について整理します。2000年頃から本格的に始まった細胞加工物の開発は、iPS細胞の発見など、技術的にも規制的にも多くの変化を経て発展しています。一方で、承認されたヒト細胞加工製品はまだ7品目しかなく、その全てがプライマリ培養を伴う体細胞由来の製品に限定されます。原料および製品特性の多様化で、設備設計の考え方も変化しているはずなのですが、各人の受け止め方はどちらかと言えば変わっていないような気がします。


● 無菌製品製造に関する考え方と巷の基準のギャップについて
 設備設計のコンサルティングを行っていると、実際に製造を行うユーザー要求仕様(URS)に準じたものではなく、既出のガイドライン等に準じた設計を見せられることが多々ありますが、過度にそれらに依存することで矛盾が生じます。例えば、安全キャビネットでの直接導入の採用や、アイソレータシステムのグレードD環境への設置などが挙げられます。製品の無菌性維持に非常に気を遣っている設計者の方なのに、「なぜそのように設計したのですか?」とお聞きしてみると、「指針で安全キャビネットが許容されエアロックは要求されていないから」、「指針でアイソレータシステムの設置環境がグレードD以上で許容されているから」という、ちょっと残念な回答を受けたりすることがあります。本来、設備設計においては、製品への影響を考慮・評価して、運用手順を含み、無菌操作等区域の設備や設置区域の条件を示唆すべきですが、現状では製品を特定せず設計を行うことも多く、それが、指針等をちゃんと読み込んでいる人ほどこういった判断を示すことが多いと感じます。
 国内での細胞加工物開発は、2010年頃までは、患者自身の細胞・組織を原料としたものがほとんどでした。これらの製造では、採取される患者由来の組織片の形状や性質が異なり、細胞単離における手技が煩雑で条件も一定ではありません。また、一度に扱う細胞・組織が少量でロットを形成しませんし、導入される組織片は必ずしも無菌性が担保できません。これらの条件から生じる煩雑な手操作あるいは封じ込めについて、リスクベースで考慮すれば、無菌操作等区域に安全キャビネットを採用し、培地や工程資材の導入もエアロックを介さず開口部に直接導入する手順を採用することは問題無い(適切である)と考えます。ただしこれらは、あくまでも該当する自己由来細胞製品に対する「品質リスクマネジメント」の結果で導き出された必要十分条件を満たす設備設計であり、無菌操作を前提とした標準的な設備設計とは大きく異なっていると考えます。

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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