GCP入門【第14回】

年末のGCP省令改正
 令和2年(2020年)12月25日に「押印を求める手続の見直し等のための厚生労働省関係省令の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第208号)」が公布され、同日施行された。本省令は、厚生労働省が所管する省令において、国民や事業者に対して記名押印又は署名を不要とする改正を行うということであり、これに薬機法施行規則はもちろんのこと、GCP省令やGLP省令等々が含まれた。同年11月の行政改革担当大臣が記者会見で、行政手続きにおける認印の押印を全廃すると発表した、いわゆる脱ハンコ社会に向けた改正の一つなのだろう。GCP省令では第47条(症例報告書)、第52条(同意文書等への署名等)、第53条(同意文書の交付)が改正された。これらについては後日解説しよう。

GCP省令第23条(監査)
 旧GCPの時代は「自主監査」という言い方をしており、その対象は治験依頼者のみであった。すなわち、モニタリングと同様に、監査担当者(当時は自主監査部門)が実施医療機関を訪問してカルテを見るということはなかったのである。当時の中央薬事審議会CCP特別部会の議事録を読むと「モニタリング・オーディティングの医療機関への受け入れ」という文言が頻繁に出てきており、前回のGCP入門【第13回】で紹介したように特別部会の先生方の懸念と御苦労が伝わってくる。
 監査は、治験がGCP並びに治験実施計画書及び手順書に従って実施され、データが記録、解析され、正確に報告されているか否かを確定するために、治験に係る業務及び文書を体系的に検証すること、と定義されている。つまり監査とは、やるべきこと(GCP、プロトコル、手順書)とやっていること(記録、解析、報告)を比べて評価することである。
 監査の対象項目で見てみると、個々の治験に対する監査と治験のシステムに対する監査に分けられる。個々の治験の監査は、モニタリングや試験データ解析や総括報告書といった、プロトコル(治験)ごとの監査である。
 

図1 治験のシステム
 

 一方、システム監査は治験のシステムが適正に構築され、適切に機能しているかを評価することと定義付けされているが、「システム」が何を意味しているのかは具体的には示されていない。このあたりは治験依頼者によって様々な考えがあろうが、ICH E6が最初に合意(Step 4)された1996年当時の品質保証のグローバルスタンダードであるISO9000:1994の考えを盛り込んだ図1の考えが理解しやすいであろう1)。例えば、モニターの教育やIT関連のデータバックアップなどは、1つの治験に留まるものではなく複数の治験に共通なシステムであり、適正に機能していることを評価する必要がある。
 次に監査対象とする施設で見てみると、治験依頼者を対象とした監査と実施医療機関を対象とした監査に分けられる。GCP省令では、治験依頼者は監査を実施しなければならないと規定されている一方で、GCPガイダンスでは、監査担当者は必要に応じて実施医療機関を訪問することと書いてある。監査は実施しなければならないが、実施医療機関は必要に応じて訪問するというGCPの記載である。通常は、監査は実施するものの、実施医療機関は全施設ではなく抽出した施設だけを訪問するというのが治験依頼者の一般的な考えであろう。もちろん、治験依頼者と実施医療機関のそれぞれで個々の治験の監査とシステム監査を行う。
 監査を実施しなければならないと書いたが、それはJ-GCP(GCP省令)で規定されていることであって、ICH-GCPでは「If or when sponsors perform audits,」と書いてある。要するに「もし監査を実施する場合は」ということであって、J-GCPのように「実施しなければならない」という表現ではない。実際にはICH-GCPが適用された治験であっても監査は実施されているが、海外と日本とでは監査のやり方や考え方は多少異なっているようである。
 監査担当者は監査に係る医薬品の開発に係る部門及びモニタリングを担当する部門に属してはならないと書かれている。ここで「部門」という言葉が使われているが、これは医薬品GCP省令の企業主導治験の条文だ。同じ医薬品GCPであっても医師主導治験や、あるいは医療機器GCP省令や再生医療等製品GCPの場合は、「従事してはならない」とか「業務を担当する者であってはならない」という書き方をしている。すなわち、医薬品メーカーの場合は「部門」の考えができるが、医師主導治験を行う医療機関や医療機器メーカーや研究機関は治験の数や規模が小さいので、「部門」ではなく「者」として考えるということなのだ。
 いずれにしろ、モニタリングなどから独立した第三者的な立場で評価するのが監査であるという、ISOなどの一般的な「監査」の考えはもちろんここでも同じ。それゆえに、規制当局は、通常の調査の際には監査報告書の閲覧を求めないこととすることが、ガイダンスに明記されており、監査機能の独立性と価値を保つためにというのがその理由となっている。
 適合性調査の際には、申請者(治験依頼者)は規制当局の求めに応じて全ての記録文書を開示しなければならない。でも監査報告書や監査記録書の閲覧を求められた場合は拒否できるのだ。その拒否できる根拠がこのガイダンスの文言である。ただし、重大なGCP省令不遵守が認められる場合には監査報告書の閲覧を求めることができるということも明記されていることに留意しなければならない。実際の調査では監査報告書の提示を求められることが多いが、それは監査を行った事実を確認したいがためであり、その際は、監査報告書の表紙だけを提示すればよいのだ。ということは、監査報告書の表紙に監査結果が書いてあると、当局はそこに着目してしまうので、表紙には監査結果は書かずに2ページ以降に書くようにしたほうが良い。

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