GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第18回】

1.伝言ゲームと転記
 伝言ゲームで、最初から最後まで正しい言葉が伝わることは難しい。会社組織の中で、上司が部下に命令をした時、その内容を部下が100%理解していることはないだろう。部下がどこまで理解しているかを上司は確認すべきである。GMPでは、定常的な作業などは手順書に記載し、教育訓練を行ったうえで、その技術を習得したかの確認を行うこととなる。しかし、多くの人間は、コンピュータではないので、教育をしたから間違いを起こさない保証はない。思い込みなど、類似の作業と勘違いすることもある。指図する者は、その点を認識しなければならない。伝言ゲームの難しい点は、その伝言を聞いたものが次の者に伝える際に、聞いたままではなく、自分の解釈が入ることにより、誤った指図等になり、誤った作業をすることになるからである。
 いろいろな記録やデータを他の記録やデータとして、転記、多くは再入力になると思うが、コンピュータのシステム間でのデータ移送は、バリデーションをすることにより保証される。しかし、人の手による操作は、バリデートできないため、その都度、確認が必要となる。特に、自分自身のチェックは無力である。例えば、私の原稿も、よほどの誤変換でないと、自分では気が付かない。それは、原稿を書いた直後では、頭の中で、思い込みがあるからで、誤りに気が付かないのである。自分でチェックする場合は、時間を変えたり、パソコンのディスプレイ上ではなく、紙面等にプリントアウトするなどして、inputとoutputを違う環境にする必要がある。現場ですぐに記録できないケースもあるだろう。試験検査において、最近は必ず、査察や監査において、生データの確認をどのようにしているか問われることが多いが、私が、GMPを担当し始めた20年ほど前では、試験検査の生データは、試験担当者のノートに取られていることが多く、「GMPの記録として位置づけするように」と指摘することもあった。試験者は、そのノートから、試験検査成績書に転記することが一般的で、その転記に間違いがないか確認するように要求することもあった。データインテグリティを問われる現在では考えられないと思う。つまり、昔は、現場での生データはメモであり、その後に製造記録や試験検査成績書をGMPの記録として記載すると考えられていた。しかし、現在は、作業と同時に記録するメモは、生データとして管理することが求められている。そして、記録書に転記するなら、そのデータに誤記がないことを確認した記録まで必要となる。日本の多くの製造所は、GMPの手順書や記録をきれいな状態を保存することを考えるが、GMPはそのようなことは求めていない。手順書は使われなければ意味がない。必要な現場で、使いこなすことが必要である。もし紛失する可能性があるなら、バックアップとして、副本を保管すればよい。記録も、きれいな文書として清書する必要はない。作業時にメモを取るなら、記録にそのまま直接、記入することが重要である。転記は、間違いを起こす要因となる。もし、メモすら取っていないと、勘違いや思い込みにより、誤記載を招くこととなる。人間の記憶はあいまいなものであることを認識することが必要である。第3回でも述べたが、「記憶にするな!記録しろ!」「記録のための記録(転記)をするな!」を守ってもらいたい。きれいな文書を書くことをGMPはもとめていない。行った作業がきちんとわかる記録を求めているのである。

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