ラボにおけるERESとCSV【第46回】

7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
 
■W社 2017/7/5 483
施設::原薬工場


Observation 1
電子記録が使用されているが、データ保持および監査証跡の要件を満たしていない。そのため、電子記録が、信用でき、信頼性があり、紙の記録と同等であることを保証できない。
特に;

残留溶媒のテストに用いるAgilentのGC、および原薬の同一性確認に用いるPerkin ElmerのFTIRが生成するデータを、権限のない削除から保護できていない。
例えば;

a) AgilentのGCおよびPerkin ElmerのFTIRが生成した生データを削除することが
  できる。
B) データインテグリティを保証するために、事象を記録もしくは追跡する監査証跡
  が必要である。
  しかし、AgilentのGCおよびPerkin ElmerのFTIRに監査証跡機能がない。

★解説:
a)項について
▷ アプリケーション
アカウント権限を適切に設定し、権限なくデータを削除できないようにする。
そのような権限設定ができない場合、アプリケーションの更新を検討する。
▷ OS
アプリケーションのデータをOS操作により変更・削除できないよう保護すること。保護方法については連載第43回のObservation 2の解説を参照されたい。
▷ 権限のないデータ変更・削除の禁止
権限のないデータ変更・削除をソフトウェアにより保護できるようになるまでの間、手順による対応を講じる必要がある。例えば、全社ポリシーなどのデータインテグリティのハイレベルポリシーに以下を規定し、周知徹底の教育記録を残す。
▷ ハイレベルポリシーの例
対応原則
1) データインテグリティ対応はALCOA原則によること。
とくに、
2) 権限なくデータや設定を変更・削除しないこと
3) なりすましを行わないこと
4) 厚労省令第1号 薬機法施行規則 第43条「申請資料の信頼性の基準」
(図15参照)を援用すること
 A) 正確性
 B) 完全性/網羅性
   ① 良いとこ取りをしないこと
   ② 得られたデータはすべて記録・保存すること
 C) 保存性
   データは所定の期間保存すること
b)項について
▷ 監査証跡を必要としない用途が多くあり、そのような用途においては監査証跡は煩わしい機能である。そのため、監査証跡をオン/オフできるよう機器が設計されている場合がある。監査証跡をオン/オフできる機器の場合には、GMPにおいては監査証跡をオンにして使用しなければならない。監査証跡がオンになっていることを適宜確認しなければならないのはいうまでもない。
▷ 監査証跡がないと良いとこ取りの繰り返し測定をしていないことを証明するのが大変難しい。監査証跡機能がないと、FDA査察において容易に指摘され483が発行される。483が発行されると、実働15日以内に指摘に対する回答が求められる。このような場合、
 ●「監査証跡つきの機器に更新する」と回答することになり、更新が
   完了したら「更新が完了し、SOP教育も完了した」との報告を行う。
483回答に添付したSOPの内容が不適切であると;
 ●機器を更新しただけでは不十分である
 ●監査証跡を含む電子記録のレビュー、適切なQAの関与があって
  データインテグリティが保証される
 ●貴社のSOPはその点で不備がある
とのウォーニングレターが発行されることがある。 ​​
▷ 更新予定があることをFDA査察官に証明しても、「予定があることは理解したが、現状は不適合」であるとして483が発行される。
▷ 483への回答が不適切であるとウォーニングレターが発行される。そのため、483への回答は慎重に行う必要があり、多くの労力を要する。社内キーマンが483に慎重に対応するため、重要な本来業務が支障を受けるのは珍しくない。
▷ FDA査察が予定されている企業は、査察前に更新を完了し指摘を受けないようにしておくのが得策である。
▷ FDA査察官は数年前に実施された試験を調査することがある。FDA査察官は紙の記録と監査証跡を対比し、良いとこ取りの繰り返し試験がないか調査する。監査証跡が残されていないと、良いとこ取りの繰り返し試験をしていないことを証明するのは大変困難である。FDA査察予定が数年後であっても、データインテグリティ対応を急ぐ必要がある。
 

図15 申請資料の信頼性の基準

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