GMP記録の信頼性確保と対応の考え方【第2回】

2018/05/18 品質システム

2.1 記録媒体の現状に関する考察
紙媒体の記録に関し、完全性を確保するための記載方法や留意点の話に入る前に、記録の信頼性確保のために考えておくべき事項について概観しておきたいと思います。
先ず、GMP記録やデータの媒体について、その現状を確認し、それを踏まえたときどういう対応が必要かといったことを考察したいと思います。
 
コンピュータと記憶媒体を含む周辺機器が進化し、世の中は着実にペーパーレスに向かっているようですが、GMPの記録やデータの管理がすべて電子媒体に置き換わるには、一部の製薬企業、試験機関を除き、まだまだ時間がかかりそうです。現状は、雑ぱくに言えば、ほとんどの企業が、紙媒体と電子媒体の併用、いわゆる、“ハイブリッド“での運用と言えるでしょう。しかも、多くは紙媒体が主の運用になっていると思われます。最新鋭のデータ管理システムを導入し、また、必要に応じ、それを自社の実情に合わせてカスタマイズするなどして、すでに、ほぼ電子媒体での管理を実現している企業、機関も一部にあると思いますが、中小企業を含めた多くの企業に普及するには、まだまだ時間が掛かると思われます。
この状況を踏まえると、やはり、先ずは紙媒体記録の完全性、信頼性について、考え方や合理的な対応方法を確認して実践することが大切と思われます。
 
2.2 改ざん・ねつ造と隠ぺい
次に、記録・データの信頼性の根幹に関わる「改ざん・ねつ造」と「隠ぺい」について考察しておきたいと思います。この信頼性に関わる2つの重要事項について、これらが、日常の製造や試験検査業務とどのような関係があるのかといったことをしっかり理解しておかない限り、GMP記録の信頼性確保を十分なものにできないと考えます。このことは、GMP記録の完全性を確保するための記録作成の方法を知識として習得し、的確に実務運用する上でも非常に重要と考えます。また、この2つの事項は電子データの記録の完全性確保を考える際の重要な視点にも繋がる事項と言えます。
 
査察対象となる記録やデータに改ざんや隠ぺいがあると判断された場合、単に、記録の信頼性の問題に留まらず、企業や組織そのものの信頼・信用が失墜し、いわゆる、コンプライアンスが問われることになり、企業経営、組織運営に大きな打撃を与えます。
現在(2018.3.18)、森友学園への国有地売却問題に絡む近畿財務局の公文書(決済文書)の改ざんが大きな問題となり国会が大混乱していますが、これにより政府自民党の信頼が大きく揺らいでいるのは当然のことと言えます。
 
世の中の様々な営みは、信頼関係や信用といったことが、いわば、前提で成り立っています。それゆえに、信頼関係や信用に関わる事実が確認されると、一瞬にして、それまで積み上げてきた大切なものが崩壊します。上記の森友学園の事例に関して言えば、最終的にどういう形で決着するのか定かではありませんが、国が直轄する公的機関による公文書の改ざんという極めてお粗末な対応は、同時に、国民を裏切る行為でもあることから、後々、大きな禍根を残すことになるでしょう。

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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