最新コスメ科学 解体新書【第15回】

2025/03/07 化粧品

「石けんの研究」について。

細菌とコスメ① マカデミアナッツでスキンケア?

 

 「せんせ、石けんの研究、しませんか?」

思いがけない出会いは、いつも突然やって来る。会社にいた頃、商品開発のチームでご一緒していたMさんから、電話がかかってきたのは、大学に移って数年が過ぎた2010年頃でした。Mさんは、ヒット商品を担当されてきたベテラン研究者で、特に固形石けんについては断トツの知識と経験の持ち主で、みなに石けん博士と呼ばれていました。そんなMさんからのお誘い、細かいことを聞くまでもなく、「ぜひ、やりましょう!」ということになったのでした。

 後日、マーケッターのNさんを交えて、3人で食事をしながら、突然の電話の理由をうかがいました。お二人は、石けんの将来に、強い危機感を覚えていました。われわれが子供の頃は、いたるところに固形石けんが置かれていて、編み状のネットに入った石けんで手を洗っていたものですが、最近は液体や泡で出てくるボディーソープやハンドソープが主流になっていて、固形石けんを使う機会はめっきりと減ってしましました。石けんならではの有難みを提案できなければ、明治の頃から続く石けんのビジネスは消えてしまうのではないか・・・。そんなことで、大学に移って比較的、自由に研究を進めることのできる私に声をかけてくださったのでした。

 お二人には、ちょっとしたアイデアがありました。それが「パルミトレイン酸」という不飽和脂肪酸だったのです。この脂肪酸はマカデミアナッツの中に含まれている脂質の一成分で、ヒトの皮膚で分泌される皮脂にも含まれているのですが、黄色ブドウ球菌を抗菌して、肌荒れを防ぐことが知られていました1)。彼らはこの成分を多量に含んだ石けんを作ろう!というのです。もともとヒトの皮膚やナッツに含まれている、いわば「食べられる抗菌剤」で皮膚を清潔にし、さらにケアをすることができれば、石けんに新しい魅力を加えることができるのではないか、というのです。

 「食べられる抗菌剤」!素晴らしいコンセプトじゃないですか。わたしの研究者としての血が騒ぎました。そんなの聞いたことないぞ!

 

 

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執筆者について

野々村 美宗

経歴

山形大学 学術研究院化学・バイオ工学分野 教授 博士(工学)
花王株式会社において化粧料および身体洗浄料の商品開発に従事した後、山形大学に赴任。2017年より現職。専門は物理化学、界面化学、化粧品学。これまでに生体表面における界面現象のダイナミクス、界面活性剤を用いたエマルション・可溶化物・泡製剤の開発、化粧料・食品の触覚/食感センシングについて研究してきた。著書に『教授にきいた・・・ コスメの科学』、『化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学』(ともにフレグランスジャーナル社) などがある。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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