最新コスメ科学 解体新書【第2回】

コスメサイエンスってなに?

 12月のある昼下がり、私はちょっとうきうきした気分で新幹線に乗り込んで、大宮に向かいました。その日からソニックシティ大宮で行われる「日本化粧品技術者会学術大会」に参加するためでした。「日本化粧品技術者会」は資生堂・花王・コーセーをはじめとする化粧品メーカーを中心として、世界中に化粧品の原料を供給する化学メーカーや大学・研究機関の研究者・技術者が集まる、化粧品分野で最も由緒正しい学会なのです。

 会場に着くと、ホールもポスター会場も満員御礼で、そこここに知った顔が見えました。事務局の発表によると、3日の間に、154件の講演と44社の企業展示が行われ、のべ1000人近い関係者が集まった、とのこと・・・。学会というとなんだか堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、同じテーマに取り組む仲間との出会いの場であり、コロナ禍のためにちょっと疎遠になりがちだったこともあって、会場は同窓会的な和気あいあいとした雰囲気で盛り上がっていました。

 このイベントに集う、いわばコスメの世界を築いてきたプロたちは、いま、どんな研究に注目しているのでしょうか?化粧の世界を支えるサイエンスは、皮膚科学・材料科学から情報科学・心理学まで多岐にわたっているので、質問に答えるのは簡単ではありません。

 そこでここでは、みなさんに学術大会の最終日に発表された優秀賞をご紹介することにしました。このアワードは、非公開の選考委員の厳正な協議により決定された、とのことです。一般に、この手の選考委員は学会のなかの中心的なメンバーや各分野で活躍している研究者が担当するものなので、いわば化粧品のプロ中のプロによって高い評価を受けた研究がアワードを受賞したと言って良いでしょう。

 まず、第1件目! 最優秀口頭発表賞は花王(株)の中村俊介氏が発表した「SSL-RNAを活用した新規肌分類指標の開発」に授与されました。・・・RNAなんて、なんだか化粧品の研究っぽくないですが、実はこれは、ちょっと話題になった研究の続報なのでした。花王(株)では、あぶら取りフィルムで顔から採取した皮脂から抽出されたごく微量のRNAを網羅的に解析する「皮脂RNAモニタリング」技術を開発し、このRNAにアトピー性皮膚炎の肌状態が反映されていることを発表しました1)。私もこの話しを初めて来たときはびっくりしました。あぶら取りフィルムでとれた、これまでだったらそのまま捨てられていた余計なあぶらから肌の状態を診断する重要な情報が得られるなんて、まさにコロンブスの卵! 今回の発表は、この方法を利用することで、女性の健常な皮膚を遺伝学的な観点から分類することに成功したことを報告したものでした。2023年の2月には、この技術を利用して、皮脂が染み込んだあぶら取りフィルムを郵送すると、乳幼児の肌のバリア機能とそれにあったケアに関する情報を受け取ることのできるという、まったくサービスがはじまることが報告されており、まさに納得の受賞と言えるのではないでしょうか2)

 

 

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