再生医療等製品の品質保証についての雑感【第69回】

2025/01/17 再生医療

水谷 学

「QbDアプローチを活用する製品開発の考え方」のまとめを述べる。

第69回:再生医療等製品の製品開発と製造工程開発とQbD (8) 
~ 指南書の作成について ~

はじめに
 ここまでにお話しをした、製品開発(QbDアプローチを活用した製品設計と製品開発)の考え方は、AMEDの再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(QbDに基づく再生医療等製品製造の基盤開発事業)において、「指南書」としてまとめる方向で進めています。以前にもお話ししましたが、同事業は本年度が最終年度であり、その成果の公表活動を進めており、昨年12月の事業成果報告会(公開シンポジウム)において、指南書の概要について説明しました。
 本指南書は、公的なガイドライン等ではなく、本年4月以降に、我々の細胞製造ことづくり拠点や、紀ノ岡研究室のホームページにおいて公開することを予定しています。本稿では、指南書の位置づけについて説明することで、筆者らが推進する「QbDアプローチを活用する製品開発の考え方」のまとめとしたいと考えます。

● 指南書における製品開発の考え方は理想論である
 今回作成した指南書は、厚労省の指針や経産省の開発ガイドラインにはできません。理由として、指南書に記した製品開発手順には、ミニマムリクワイアメントの要求事項ではなく、そもそも論に基づく、現状で考慮できる最適解からの要求事項だからです。いわば理想論であり、PLの紀ノ岡先生は、「教科書的な位置づけ」と評しています。
 細胞加工製品の製品開発では、有効性を担保するQTPP(目標製品品質プロファイル)に相関するCQA(重要品質特性)を単独で決定することが難しい場合があります。その場合は、下図に示すように、治験製品製造時において妥当性を評価したQTPPとCQAの相関は、製造方法の変更により担保されなくなる可能性が否定できません。すなわち、変更を実施しようとすれば、製品設計のいずれかの段階に「後戻り」するリスクが生じます。理想的な製品開発では、後戻りを生じないようにするため、製造工程開発(製造工程開発プログラムの構築)を前倒しで実施する必要があります。
 一方で、製品開発の初期段階(製品設計)において詳細な製造工程開発プログラムを構築することは、必要なデータ収集など、コストや時間がかかり、事業者に負担が生じます。変更に関する制限や後戻りのリスクを事業者が許容できるならば、製造工程開発プログラムの前倒は必ずしも必須ではありません。

図1. 従来製品開発手順と細胞加工製品開発手順の違い

 製造工程開発プログラムにおいて何を要求事項とするかは、事業者の戦略に依存します。例えば、コストと時間を最小限に実用化を目指すベンチャー企業は、実直に全ての要求事項を実施するではなく、ここに記載された要求事項を理解し、むしろいかに省略することができるかが命題となると認識します。その場合、本指南書はあくまでも踏み台です。これらを考慮すると、本指南書は、要求書ではなく、解説書(教科書)としての位置づけであることが重要と考えます。

 

 

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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