医薬品製造設備の基本、計画、設計、建設プロジェクトを学ぶ【第4回】

2017/12/31 施設・設備・エンジニアリング

3) 基本設計(工程表ID 17~58)
このフェーズでは、顧客の設備仕様に関する要求条件の全体が初めてエンジニアリング図書にまとめられます。従って、設計内容を決めるのは、かなりの部分顧客に主導権があり、コントラクタは、顧客が決めた内容をエンジニアリング図書に取りまとめるといった程度の作業もあります。このため、顧客不在の状態で設計を進めると、まとめた資料の内容が顧客要求に合わずやり直しとなることもあります。これは、顧客側も留意すべきでしょう。基本設計図書に記載される情報は、まだまだ製作に耐える詳細情報ではなく、あくまで、顧客の要求事項のエンジニアリング版ですので、顧客の期待がどの程度、どこにあるか、よくコミュニケーションを図り、網羅しておくことが必要です。

3.1.1基本設計条項
「基本設計条項」は、基本設計を開始するための技術上の基礎情報やプロジェクト遂行上必要な取り決めが網羅されます。具体的には、図面の表示方式、適用法規・条例、適用規格、建設サイトの立地条件、環境保全の条件、用役の条件、建物、機器や計装の基本、保温・塗装の基本といった情報です。通常は、コントラクタに標準的なフォームが用意されているので、顧客とコントラクタとで共同で作成します。
3.1.4 PFD
 基本設計条項をもとに、プロセス・エンジニアが、単位プロセスの化工計算を行い、プロセスを定量的に把握しながらフロ-が確定されます。「PFD」を構築する際、同時に物質収支、熱収支が計算され、プロセス各部の基本操作条件も決定されます。プロセスの最適化のため、リサイクル、バイパス、分岐合流等についてもこの段階で決まってきます。原薬製造の場合、プロセス・オーナーは顧客ですので、この段階のプロセス設計は顧客エンジニアが済ませている場合もあります。この場合、コントラクタは、物質・熱収支の確定や、プロセス・フローの見直しなどから支援として参画することが多いでしょう。
3.1.5 P&ID
 「P&ID」は、エンジニアリング情報のすべて(製作に必要な詳細構造や寸法などは除き)が含まれており、建設プロジェクトの「バイブル」と言うべき図書です。プロジェクト全体から見ても、如何に早くこのP&IDを完成させるかが、最も重要な成功要因の1つです。プロジェクトの失敗要因、それも大きなコストインパクトのある失敗要因には、このP&IDが決定できずいつまでも変更が続くことが原因だった、というケースが多くあります。プロジェクト・マネージャは、エンジニアリング・マネージャーと共に、P&IDの終結に努力しなければなりません。また、先にも述べたように、基本的な考え方は顧客に依存することが多いため、顧客との密なコミュニケーション(打ち合わせなど)が必要です。ここでは、契約後2カ月で、書きあげるとしました。プロジェクトの内容によりますが、顧客側から開示された情報がPFDレベルの場合は、2カ月では相当短い期間と考えられます。場合によっては、設計期間を延長する勇気も必要となるでしょう。
 プロジェクトによっては、P&IDの一次案を顧客が作成としている場合も少なくありません。P&IDが一通り出来あがったところで、PLOT PLAN(3.1.3)とともに顧客、エンジニリング側が一堂に会して、レビューを行います。このレビューで顧客要求事項が間違いなく組み込まれている、あるいは、図書に間違いなく記載され「見える化」されているかを皆で確認します(3.1.7)。このレビューはプロジェクトのキーとなる図書の総合レビューですから、基本設計に携わったエンジニア全員が出席する必要があります。通常は、エンジニアリング・マネージャーがこの会議を招集します。こうして、レビューされ、その結果に基づいて改訂されたP&IDとPLOT PLAN(3.1.8)は、詳細設計段階の配管レイアウト設計(4.5.1)や、配管材料の一次集計(4.5.9)などの後続の作業に引き渡されます。これは、完全なP&IDの完成を待っていては遅くなるためです。
 後続の作業を開始するのに十分な完成度で、P&IDを引き渡す行為は「P&IDのフェーズ管理」と呼ばれ、プロジェクトの全体工程を短縮するために行われます。
 配管材料の一次集計は、概略の配管材料量(想定では、全体必要量の70%程度)を先行発注して材料の工場に注文し、安価に調達する目的があります。しかしながら、納期が、在庫品の調達にくらべ長くかかるため、正確さには欠けてはいても、あえて基本設計段階の資料で集計作業を行い、早期発注を行います。配管材料の内、バルブやストレーナーなどP&IDから確実に拾うことが出来るものについては、この段階で、その後の変更を除いてほぼ確定できます。

図―P&ID 化学プロセス集成(東京化学同人、1971)より引用

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執筆者について

戸崎 和夫

経歴 IPP management代表、技術士(化学)、中小企業診断士。
大学での5年間の研究生活ののち、1976年、大手エンジニアリング会社入社、エチレンプラント、化学プラントのプロセス設計を経て、国内外の化学、医薬、食品プラントのプロジェクト・マネージメントを担当。
EPCプロジェクトとして、医薬では、主に原薬製造設備、注射剤製造設備、化学では、繊 維、半導体、ゴム、樹脂、食品では、パン、食品添加物、調味料、精糖など20件以上のプロジェクトを手掛ける。この中で、国内初のケミカルハザード対応注射剤設備の構築も 経験している。
プロジェクトの遂行形態では、特にコンセプト段階からの一貫した提案型プロジェクト遂行の確立に意を注いだ。2014年退社後、中小企業診断士として独立、その後、独立行政法人にて、中小企業の海外展開の支援を行い現在に至る。
ISPE機関誌、Pharmaceutical Engineeringに原薬製造設備の設計に関する論文を3篇発表している。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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