再生医療等製品の品質保証についての雑感【第62回】

 

第62回:再生医療等製品の製品開発と製造工程開発とQbD (1)
     ~ CQAの決定とプロセス構築の課題


はじめに
 前回、「QbDなんて単なるプロセスアプローチ」とお話ししました。プロセスアプローチであれば、先ずはアウトプットである重要品質特性(CQA)を含む製品品質、特に目的細胞のCQAを決定する必要があります。一方で、細胞加工製品の品質は、細胞の同定が困難であることと併せて、大きな課題が生じます。また、その課題の難易度は、開発したい製品によりケースバイケースです。本稿ではQbD議論のスタートとして、プロセスアプローチの原理と、CQAの決定について雑感を述べます。


● とりあえずプロセスアプローチの基本的な手順から
 品質マネジメントシステム(QMS)の七原則の1つである、プロセスアプローチとは、活動の集まりをプロセスから成る「システム」として取り扱うことです。そもそも全ての活動はプロセスであり、大きなものから小さなものまで様々に存在します。大きなプロセスは小さなプロセスの集まりであり、小さなプロセスは、小さなアウトプットを次のアウトプットにつなげることで、最終的に大きなアウトプットにつながります。
 また小さなプロセスは、並列あるいは直列でつながり、より大きなアウトプットを創出します。その組み合わせ、解釈は、組織のマネジメントにより異なり、システムは組織ごとでユニークです。例えば、細胞培養プロセスは、播種/培地交換/継代/回収というように、直列のつながりで構成する場合、播種/増幅/回収という大きなプロセスと培地交換/継代という小さなプロセス(ユニットプロセス)の組み合わせで構成する場合、いずれも同じアウトプットを創出しますが、マネジメント手順は異なります。また、培養プロセスの実施中において、例えば炭酸ガスインキュベータは、37℃の温度や5%CO2などのアウトプットを並列して創出します。これらすべてを統合してまとめたものが製造システムとなります。アプリが矛盾無く作動するために複数のフローチャートを矛盾無くつなぐのと同じ作業です。
 余談ですが、当拠点の紀ノ岡先生は、異なる企業や装置のプロセス間をつなぐことで、モノづくりをシステムとして社会実装する活を「つなぐ技術」と呼んでいますが、この活動自体もプロセスアプローチです。
 最小限の「システム」は、図1のように、アウトプットとインプット、そしてプロセスより表現できます。安定した品質を達成するには、先ず何よりも、① 目標(アウトプット)の品質(CQA)を詳細に理解した上で決定し、その作業分解構造(WBS: work breakdown structure)を実施します。
 次に、品質実現が可能なプロセス機序の想定より、② 目標品質が達成可能な原料特性(CMA)を決定します。ここで留意しなければいけないのは、アウトプットがプロセスを介してイコール(等価)となるように意識することです。理由として、投入する原料が品質を構成する全ての要素を満たさなければ目標品質を達成できないと考えるからです。この考え方は化学式と近似と感じるので、筆者は非常に馴染み深いです。(同じではなく近似と表現するのは、実際のプロセスアプローチにおいて、イコールはあくまでも原則で、イコールではない場合が考慮されるからです。)
 そして最後に、③ 品質を実現可能な手順(CPP)を構築します。このシステムの手順(プログラム)がプロセスアプローチの最小単位となります。

図1. プロセスアプローチの基本概念


● インプットとアウトプットの関係
 アウトプットの規格を決定するとき、留意すべきことは、目標品質がインプットとプロセスに適切に分解できることをWBSで確認できることです。要は、どうやったら品質を実現できるかの機序を理解していることです。その理解がなく闇雲に目標品質を決定しても品質は構築できません。
 細胞加工製品の製品開発の場合、例えば、目標品質製品プロファイル(QTPP)において特定の組織細胞とその表現型を決定したとしても、その表現型の実現方法の機序(インプットとプロセス)がわからなければ、それをCQAとすることは不適であると認識します。もちろん出荷判定時の品質規格にはなりますが、プロセスで品質を構築するというプロセスアプローチの考え方からは程遠いです。それでQbDを実施するとは夢のまた夢です。
 細胞加工製品の製造では、このインプットとアウトプットの関係が容易に想定できるものとそうでないものが存在します。
 例えば、CAR-T細胞やiPS細胞由来製品は容易であると認識します。CAR-T細胞では、インプットがCAR遺伝子と単核球に、プロセスが遺伝子導入操作に、アウトプットがCARを発現した細胞に、それぞれ定量的な決定が可能であると考えます。
 iPS細胞由来製品では、インプットが未分化iPS細胞に、プロセスが分化誘導操作(培養環境)に、アウトプットが分化細胞に、それぞれ定量的あるいは定性的に決定が可能であると考えます。一方で、間葉系幹細胞(MSC)などの体性幹細胞加工製品では、これらの関係性構築に煩雑な部分が存在していると考えます。
 


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