ゼロベースからの化粧品の品質管理【第41回】

 

―『製品の安定性に影響を与える成分』について―

 化粧品GMPにおいて、品質保証の実務の運用面からお話させて頂いています。
今回は、製品保証の視点からGMPの視点よりももう少し広い論点から、「製品の安定性に寄与する成分」について考えてみたいと思います。
 前回お話した防腐剤では、pHを変更する、油分組成を少し変更するだけで防腐力が大きく変化することをお伝えしました。骨格処方が確立されている場合でも、コンセプト成分を少し加えるだけでpHが変化したりしますので、「少し変更しただけなので製品の安定性は骨格処方で保証されているので問題ない!」と言うのではなく、論理的に処方を見ることが必要です。

1.微量な成分の変更により製品の安定性が悪化した事例
(事例1)
 笑い話になりますが、ある製品で色素が添加されているので色素を抜きましょうとなったことがありました。中味の経時による色の変化に対してマスキング効果として着色がされていたのですが、この背景を理解していない方が色材を抜いてしまいました。そうすると、「色が違う」、「色が付いた古い製品を売られた」と、クレームが多量に発生したとのことでした。
 このケースでは、中味の致命的な欠陥の問題ではありませんが、製品としては大問題です。容器を着色するなどの手段はもちろんありましたが、微量の処方変更である色素の抜去は安易に行うべきではありません。それぞれの成分の背景を知らないまま変更を行うケースが多く見受けられます。
(事例2)
 乳化製品で粘度を上げる、下げる場合に、脂肪酸の総量を変えずに脂肪酸組成を低分子側や高分子側に変更する方法があります。乳化における脂肪酸組成では安定性の黄金比がありますので要注意です。固形分や油相の極性が変わらないからと言っても注意が必要です。
 蛇足ながら、OEMメーカーを始め多くのメーカーでは基本的な骨格処方が確立されており、この骨格処方に対してコンセプト成分を加えて製品化されることが一般的です。最近ではモデル処方が文献や原料メーカーから提供されることもあり、組成を変更したりコンセプト成分を追加したりすることで製品処方が完成します。そのため、水分量や油分量、脂肪酸や液体油分を使用性面から選択するなど、ゼロベースからの検討が少ないように感じられます。
 また、原料単体としての使用感が近い場合、例えば、スクワランと流動パラフィンの使用感は近いことからコストダウン手段としてスクワランを流動パラフィンに変更する等、原料の構造まで踏み込んで検討がなされずに処方を変更することが考えられます。ベビーオイルなどでよく使われていますが、一層系では問題ありませんが、乳液等の二層系では大きな問題が発生する可能性があります。防腐力が低下したり、ゲル化したりして、製品としての安定性が損なわれることも考えられます。

 処方を扱う上では、原料単体の構造や不純物を含む組成の理解が必要です。その後に、乳化製品では乳化理論、HLBや有機概念図によるアプローチ、界面活性剤の選び方や油相の相溶性や液晶理論などの理解も必要になります。
 今回はもう少し簡単なコンセプト成分の追加や若干の修正を行う際に留意すべき成分や項目に焦点を当てて次にお話します。
 
2.製品の安定を確保する成分について
 製品は各製造所で生産される際、微生物以外にも微量な金属(例: 鉄)、水分などの混入は避けられません。時折、油分や水分が微量混入する可能性も考えられます。物流段階では、光、振動、衝撃、温度、湿度の変化といった外部の刺激を完全に避けることは難しいです。そのため、これらの外的要因に対応するために成分的な調整が行われます。
 製品としての品質保証においては、一次容器や二次包装材を含む対応が行われます。処方面では、微生物に対する防腐剤の選択や、成分の酸化劣化に対する酸化防止剤の添加、経時的な酸化による液性pHの安定性を確保するための緩衝剤の追加などが行われ、製品の安定性を確保します。
 この際、効果成分だけでなく金属イオンなどが触媒的な働きをし、色の変化を引き起こすことがあるため、色の安定性に対応するためにはキレート剤の追加なども考慮されます。製品の使用、保管場所、使用方法が異なる場合、確立された処方でも注意が必要です。
 
3.乳化製品で安定性を不安定にする要素
 乳液やクリームの乳化製品の安定性は、油相と水相、および界面活性剤の各成分組成によって確保されます。乳化が安定であるためには、適切な界面活性剤処方を用いて、乳化粒子を均一にすることが重要です。粒子径の差が大きい場合や乳化粒子径の分布が広い場合には、安定性が損なわれます。そのため、乳化を安定化させる際には、まず乳化粒子を細かくすることが焦点になります。
 ただし、O/Wタイプの乳化製品では、油滴の上昇速度は粒子径だけでなく、油相と水相の密度差や水相の粘度にも依存します。この点は最終処方としての論点ではなく、乳化工程における水相と油相、特に水相の組成が重要です。密度差が特に重要であり、極性よりも密度差のファクターが大きいと感じています。最終的な処方が同じであっても、乳化段階における水相成分によって乳化状態が大きく異なります。分析技術が進歩しているにもかかわらず、成分分析によって正確に処方を再現しても、乳化の状態や製品としての安定性を再現できないことがあります。乳化段階における水相成分によって乳化状態は大きく異なります。つまり、最近では分析技術が進んでおり成分分析によりかなり正確に処方を再現したとしても、乳化の状態や製品としての安定性確保が再現できないことがあります。
 乳化製品における成分に関する話題は重要ですが、今回の話はここで終了します。少し話がそれましたが、骨格処方と基本的な工程が確立している前提で、コンセプト成分を加えたり、粘度を若干上げたり、コストダウンのために成分を変更したりする際に留意すべき成分や物性について次ページで考えてみたいと思います。

 

 

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