再生医療等製品の品質保証についての雑感【第57回】

2024/01/12 再生医療

水谷 学

前回に引き続き、無菌操作環境の維持管理(清浄化)の考え方について雑感を述べさせていただきます。

第57回:生産計画におけるキャンペーンの考え方と製造環境の維持管理 (3)


はじめに
 前回に引き続き、無菌操作環境の維持管理(清浄化)の考え方について雑感を述べさせていただきます。前回お話しをした、チェンジオーバーに関するガイドライン「図1」の運用設計を行う上で、難易度が高いという部分についてです。


● 無菌操作環境の継続判断と清掃作業の位置づけの相関
 

 培地交換や継代作業など、1つのバッチ(全体プロセス)における細胞加工に関わる無菌操作(ユニットプロセス)の作業終了時において、グレードAを含む無菌操作環境(清浄度レベル)が、その後の無菌操作作業(次工程)の開始に向けて、「継続しない」と考える場合と、「継続する」と考える場合では、その後の片づけ、清浄化(清掃および必要に応じての消毒・除染)に関する位置づけは大きく異なります。先ずはそれぞれについて整理します。
 無菌操作環境が継続しないと判断する場合は、少なくともグレードAを含む清浄度管理はブレイク(終了)します。ここで再び細胞加工作業(無菌操作)を実施するためには、消毒・除染という無菌化作業で無菌操作を「再構築」することが必須となります。したがって、作業終了後の片づけ作業(グレードA区域からの前工程資材等の除去など)、および清掃作業(作業区域に残留する汚れ等の除去・拭払)は、初期化(ラインクリアランス)の作業と同様で、後に無菌化作業を行うことを前提とした(環境の無菌性維持を要求されない)操作で良いと認識できます。簡単に言えば、片付けや清掃の作業では、無菌操作に関わる所作が要求されない、となります。もちろん作業後の環境モニタリングも、無菌化作業後で良いので、必要ありません。
 一方で、無菌操作環境が継続していると判断し、清浄度レベル的にはそのまま次工程を実施できるとする場合には、片付けや清掃などの作業に高度な制限が設けられると考えます。具体的には、前工程の終了時から次工程までの開始に向けた、全ての作業で無菌操作が実施される必要があります。そうでなければ、無菌操作環境が継続しているということに矛盾が生じますよね。すなわち、片付けや清掃の作業では、無菌操作に関わる所作が必須となる、となります。
 さて皆さんは、上記のどちらの判断で無菌操作環境を管理しているでしょうか。前者の場合、初期化と同様の考え方ですので、環境モニタリングの結果による、無菌操作環境が再構築されたことの判断が必須です。あるいはバリデートされた除染等の無菌化手順が必須となると考えます。後者の場合、作業後の廃液ボトルや廃材の取り出しにおいて、床面の清拭において、その作業が無菌操作環境を継続できていることを意識する必要があります。さらに必要に応じて、無菌操作環境が継続していることを確認する環境モニタリングを追加する必要があると考えます。少なくとも、現在グレードA区域などで行っている落下菌や五指等の付着菌測定は、あくまでも加工作業が製品に影響を与えていないことの評価であり、その後の片付けや清掃を含めた、無菌操作環境が適切に清浄度レベルを維持(継続)していることの確認ではないです。
 後者の場合は、片付けおよび清掃作業が無菌操作を要求されますが、我々はこの要求について、無菌的清掃(aseptic cleaning)作業と呼称しています。無菌的清掃では、構築されたグレードA環境をブレイクさせないように留意し、作業者の手順を決定する必要があります。このような作業の手順構築では、作業者の動作、区域内の清掃可能な領域も制限する必要があると考察します。例えば、作業者が安全キャビネットに身体を入れ、壁面等を拭払するような作業はリスクが高くなるのではないでしょうか。

 

 

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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