医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第47回】

 

内分泌攪乱化学物質の生物影響の研究例

 

 前回申し上げたとおり、内分泌攪乱化学物質(EDCs)は、性ホルモンや甲状腺ホルモン等による制御系に影響を及ぼし、ばく露された個体だけにとどまらず、命を継いでいくプロセスにも影響する可能性があります。
 今回は、雌ラットへの生殖内分泌系への影響の研究を例としてご紹介したいと思います。これら研究は、主に私が20年以上前に行ったもので、あらかた記憶のかなたでしたので、当時発表した論文類を読み直して、再構築してみました。
 それなりにボリュームのある内容であり、今回だけでは収まりかねますので、今回は成熟した雌への影響をお示しし、その後、新生児への影響と発がんに関する影響をお示ししたいと思っております。このところ生殖発生毒性関連の話題が続いておりますので、いい加減飽きたという声もあろうかと思いますが、もう少しがまんしてお付き合いください。

 アルキルフェノールのうちオクチルフェノール(OP)は、エストロジェン様作用を有することは以前お話ししました。OPとエストロジェンの代表である17β-エストラジオールの化学構造とは、ヒドロキシ基がベンゼン環に直接結合している点が共通な程度で、私には類似しているようには見えないのですが、OPは細胞内のエストロジェン受容体に結合する能力があります。
 


 まずは正常発情周期を有する雌ラットへのOPの影響を確認することにしました。言ってみれば、現世代への影響です。
 正常性周期を示す雌のDonryuラットにOPを28日間連続皮下投与し、投与期間中は腟スメア像を調べることにより性周期を確認し、投与7日および最終投与の翌日に動物を屠殺・剖検しました。経皮下の亜急性毒性試験のようなものです。
 その結果、50 mg/kg体重以上のOP反復皮下投与により性周期のサイクルが乱れました。それに加え、100 mg/kg体重投与においては連続発情が発現しました(下図)。性周期の乱れとは、前回ご説明した、発情前期、発情期、発情後期、発情休止期の4日の周期が乱れるという状態で、ヒトに例えると月経周期不全のようなものです。また、連続発情とは、発情期のような腟スメア像がずっと続くというもので、ラットは発情前期の夜~発情期の朝に排卵されるのですが、このような状態になると排卵停止になります。つまり、妊娠はできないという状態です。
 

 

 連続発情に陥った子宮の形態は正常発情周期におけるいずれのステージとも異なっており、内膜構成細胞の細胞増殖活性がわずかながら亢進していたものの、正常発情周期における発情後期と比較すると低レベルで、明らかに異常でした。
 このようにOPを50 mg/kg体重以上の用量で正常発情周期を有するラットに28日間連続皮下投与した場合、OPは用量依存性に性周期や生殖器系に対して影響することがわかりました。これは外因性にエストロジェンを投与しても認められることからエストロジェン様作用と言います。また、下図に示したように、OP投与動物の血清中エストロジェン濃度が低値傾向を示し、腟スメア像が異常であったことからホルモン制御機構に対する影響が示唆されました。
 


 

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