ラボにおけるERESとCSV【第106回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(76)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ HHHH社 22022/4/8  483
施設:製剤工場

★本査察について
本査察はFDAの下記査察データベースに登録されていない。
  査察データベース:https://datadashboard.fda.gov/ora/cd/inspections.htm
通常のGMP査察における指摘事項の有無はこのデータベースに登録され開示されるが、PAI(承認前査察)はこのデータベースに登録されない。そのため本査察はPAIだと思われる。米国へ新薬等の承認申請を行うとPAIが実施され、PAIに合格しないと承認審査が開始されない。

■Observation 1
コンピュータの入出力、記録、データが正確であることを確認していない。
特に:

■Observation 1 a)
CDSの監査証跡をレビューした記録によると、成分分析のシーケンスが削除されていたことが判明したが、このシーケンス削除が生データに影響していないことを証明できていない。さらに、このCDSの監査証跡をレビューしたところ、注入シーケンスが削除されている事例があった。また、機器のシャットダウンが数え切れない程多くなされていることが監査証跡により判明した。

★解説
CDS:Chromatography Data System クロマトグラフィーデータシステム
「分析のシーケンスが削除」とあるが、「分析シーケンスにより一連のサンプルが自動分析されたが、それらの分析データが削除」の意味であると解釈した。その一連の分析データを削除後、再度分析を行い、2回目の分析結果を生データとしていたと思われる。1回目の分析を記録から抹殺し、2回目の分析結果のみを記録したということであり、良いとこ取りをしていた疑いがあるということになる。「シーケンス削除が生データに影響していないことを証明できていない」とは、「いいとこ取りではなかったことを証明できていない」という指摘であると解釈している。 

「注入シーケンスが削除されている」とのことであるが、「分析シーケンスによる自動分析とは別に、シングルインジェクションにより単発分析し、その単発分析結果を記録から抹殺していた」と解釈した。何のために単発分析し、その単発分析結果を何故削除したかの説明がなされなかったものと思われる。良いとこ取りをしようとしている徴候として疑われたものと思われる。

機器のシャットダウンが多くなされていたとのことであるが、査察官がどのような懸念をいだいたのか推測出来なかった。

■Observation 1 b)
2020年と2021年の監査証跡によると数え切れない程多く分析が中断されていたが、分析を中断した理由は記録されていなかった。

★解説
本指摘もCDSにおける指摘であり、HPLCによる分析を数多く中断していたものと思われる。分析の進捗状況を見て規格外の分析結果になりそうだと判断し、その分析を中断して新たに分析しなおしたものと思われる。つまり、都合の悪そうなデータを記録から抹殺しようとしたものと思われる。分析を中断してやり直すのではなく、分析を完了させ所定の手順に従った処置が必要である。得られた結果が規格外(OOS:Out-of-Specification)であった場合、FDAやMHRAの下記ガイダンスに従った手順とするのがよい。

FDA:
「Guidance for Industry, Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results for Pharmaceutical Production」(2006年10月)においてOOS処理のガイダンスを示している。このガイダンスにはその根拠法令(連邦食品・医薬品・化粧品法、cGMP)も記載されている。このガイダンスを参照し、法令違反とならないようなOOS処理手順とする必要がある。このガイダンスの要旨はファームテクジャパン2018年2月号における「FDA 483指摘140件に基づく データインテグリティ実務対応の留意点 その3」を参照されたい。

MHRA:
2018年3月にはMHRA(英国医薬品庁)よりOOS/OOT調査のガイダンスが公開された。
Out of Specification & Out of Trend Investigations
https://mhrainspectorate.blog.gov.uk/2018/03/02/out-of-specification-guidance/
このガイダンスはFDAのOOS調査ガイダンスを補完するものと位置づけられており、フローチャートにより具体的なステップが示されている。

■Observation 1 c)
データインテグリティのSOPには、分析シーケンスの削除と変更を行って良い事例が規定されていなかった。QC職員によると、これから実施する分析シーケンスを事前の承認や記録なしに削除することができるとのことであった。

★解説
良いとこ取りを防止するように規定されていないとの指摘である。つまり、良いとこ取りしたデータを基になされた過去の品質判定には疑いがあるということになる。このような場合、過去の参考品を再分析し品質判定を再確認するようにとの警告がなされた国内事例があった。

 

 

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