ラボにおけるERESとCSV【第104回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(74)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ FFFF社 2021/8/23  483
施設:原薬工場

★本査察について
本査察は新規製造施設における原薬製造に対する承認前査察(PAI:Pre-Approval Inspection)である。米国へ新薬等の承認申請を行うとPAIが実施され、PAIに合格しないと承認審査が開始されない。そのため、この企業は承認審査が遅延無く開始されるよう、コロナ禍にもかかわらずFDAに対しPAIの実施を求めたのではないかと推察している。

PAIの目的はFDAのCPGM 7346.832(2010/5/12)に以下の様に記載されている。
CPGM: Compliance Program Guidance Manual (FDA査察官用マニュアル)
 
3.4 査察の目的
目的1:量産準備はできているか監査
目的2:承認申請書に適合しているか監査
目的3:データインテグリティ監査
  • 生データ、ハードコピー、電子記録を監査し
    • 承認申請書のCMCセクションに記載されたデータが信頼できるものであることを確認する。
  • 安定性やバイオバッチデータなど全ての関連データがCMCセクションに提出されていることを確認し
    • 提出データが完全で正確であることをCDERの製品レビュアーが信頼できるようにする。

■Observation 2 a) 
原薬製造に使用されている電子データ収集システムの手順管理が不十分である。特に;
バリデーションにおいてデータ収集に使用したコンピュータ化システム(ペーパーレスレコーダー)がバリデートされておらず、オリジナル電子記録と関連するメタデータ(監査証跡など)が改変削除から保護されていることを保証できていない。データレビューにおいてテスト結果の最終プリントアウトしかレビューしておらず、オリジナル電子記録に対して確認していない。

★解説
新規製造施設における原薬製造のバリデーションにおいて使用したペーパーレスレコーダーが指摘されたものと思われる。このペーパーレスレコーダーは市販標準製品であり、ソフトウェアカテゴリ3である。

指摘1:
オリジナル電子記録と関連するメタデータ(監査証跡など)が改変削除から保護されていることがバリデートされていない

★解説
製造工程におけるCPP(Critical Process Parameter: 重要工程パラメータ)を記録する常設のペーパーレスレコーダーにDI対応が必須であるのは言うまでもない。一方、本指摘を受けたペーパーレスレコーダーは常設ではなく、バリデーションにおいて一時的に使用したものであろうと推測する。PAIの目的のひとつは申請データのインテグリティ監査であるから、申請データの収集に一時的に使用した機器であってもそのDI対応が調査されるということである。製剤開発や分析法開発などCMCにおいて使用する機器にもDI対応が求められるのと同様である。

ペーパーレスレコーダーにおける電子的設定や生成される電子記録には以下の様なものがある。
  • アカウント設定(権限設定)
  • 日時/タイムゾーンの設定
  • 入力タイプの設定
  • 入力レンジの設定
  • アラーム値の設定
  • サンプリング周期の設定
  • 表示画面の設定
  • 測定データ
  • 測定データや設定に対する監査証跡

カテゴリ3であっても、設定により実現される機能のバリデーションは必須である。また、DI要件を満たしていない場合には、手順によるDI対応が必要である。

例えば、各種設定に対する権限設定機能(アカウント管理)が不十分な場合、重要な設定の正しさを使用の都度確認し、その記録を残す必要がある。

  • 日時/タイムゾーンの変更が保護されていないのであれば、使用時に日時/タイムゾーンをダブルチェック
  • アラーム値の変更が保護されていないにもかかわらずアラーム発報を監視しているのなら(アラーム発報の有無による運用監視を行っているのなら)、アラーム値がいつの間にか変更されていないことを適宜確認 など
設定によらず実現される標準機能の機能検証は以下の様に考えるとよい。
以下の条件を満たす場合は、設定によらず実現される標準機能の機能検証をユーザーにおけるバリデーションにおいてテストする必要はない。
  • 標準機能の仕様がユーザーマニュアルや取扱説明書等に明記されている
  • 取扱説明書等に明記されている標準機能が供給者により検証済みであることを供給者監査において確認できている
    (書面による供給者監査でも訪問による供給者監査のどちらでもよい)
  • 供給者監査において検証確認できた機能が、DQ結果としてトレーサビリティマトリクスに記録されている
ただし、PQは必要である。
 

カテゴリ4のシステムにおいても、設定によらず実現される標準機能は上記と同様に考えるとよい。なお、カテゴリ4システムにおける機能を以下のように分類して、機能ごとに検証方法を決めるのが合理的であると考える。

  • 設定によらず実現される標準機能
    (供給者監査とDQで対応)
  • 設定により実現される機能
    (設定が期待どおり機能するかテストにより検証)
  • 構成設定による機能
    (構成設定が期待どおり機能するかテストにより検証)

指摘2:
データレビューにおいてテスト結果の最終プリントアウトしかレビューしておらず、オリジナル電子記録を確認していない。

★解説
ペーパーレスレコーダーの最終プリントアウトに何が印字されており、プリントアウトされた測定データ(レコーダー記録)をどのようにレビューしているのかが記載されていないが、一般論として以下の様に言える。

1)    以下の条件であれば、プリントアウトのレビューで十分

  • データレビューに必要な項目がすべて印字されている
    (測定データ、アラーム設定値、アラーム発報履歴など)
  • それらが電子記録の正確なコピー(真正コピー)であることが保証されている
    (バリデート記録がある)

2)    上記の条件を満たしていない場合は、電子記録をレビューする

  • ペーパーレスレコーダー中の電子的設定や生成された電子記録が生データとなるので、オリジナル電子記録をレビューする
  • その電子生データ(オリジナル電子記録)を、規制が求める期間にわたり改変削除から保護し維持する
  • この電子生データ(オリジナル電子記録)が上書きされる場合はアーカイブを実施する

 

 

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