再生医療等製品の品質保証についての雑感【第51回】

第51回:バリデーション設計の考え方 (7) ~ より簡便にバリデーション設計できる開発とは? (1)

はじめに 
 ここまで、再生医療等製品(細胞加工製品)の特性と、そのバリデーション設計の進め方として、理想論を前提としたお話しをしてきました。しかしながら、現実的には、細胞加工操作を理解して動作の全てをパラメータ化することも、製品開発の段階で商業製造の標準作業手順(SOPs)やユーザー要求仕様(URS)を想定することも、いずれも難しいことは当然であり、なかなかできることはありません。ではここからは、どのように考えて開発を進めておけば、上記を考慮した現実解として、よりリーズナブルな工程およびバリデーションの設計を示せるのか、本稿より考察していきたいと思います。あくまでも数多の考え方における1つの雑感であり、笑って読み飛ばしていただければと存じます。

● そもそも何がバリデーション設計の課題となるのか
 バリデーションマスタープランを含む、製造承認後(商業製造設備)のURSの作成において問題となるのは、治験製品と同等性、同質性を有する製品の工程設計、特に上流工程に関わる技術移管を適切に行うのが難しいことであると認識します。ここで生じる課題は、培地成分など特定の細胞生育(バイオプロセス)に関わるパラメータ(PPs)を除くと、概して2つ挙げられると考えます。1つは、新たに作成する作業のSOPsについて、デザインスペース(DS)が容易に決定できないこと。すなわち、作業内容が煩雑で同等性を担保する重要プロセスパラメータ(CPP)が示せないことです。もう1つは、治験製品製造から商業製品製造においてスケールアップ等の工程変更への対応が難しいこと。すなわち、後付けでDSのCPP拡張あるいは変更することが難しいことです。

 先ずは、前者について考えてみたいと思います。


● 幹細胞培養における工程設計の前提
 現状で我々が細胞加工製品製造の細胞培養で要求するPPs制御の多くは、医薬品製造(CHO細胞等の培養)を含む、一般的なプロセス設計と比較して、非常に特異なものであると認識します。その理由は、これらのPPs制御が、バイオプロセスに関わる本来のDS設計ではなく、バイオプロセスを中断して実施する環境調整により生じる「乱れの大きさ」というDSに対するPPsの制御となるからです。(本工程設計の考え方の詳細は、第32回をご参照いただければと思います。)
 本来、連続的に進行するプロセス(化学反応等)を実施する場合は、そのプロセスを途中で止めたりはしないと思います。またプロセス実施の条件は、プロセスの開始から終了まで一定に維持する、あるいは、成り行きによる増減(原料や副産物)を見守るであろうと想定します。すなわち、プロセスは開始から終了までを連続的に管理することが望ましいと考えます。実際、例えば流加培養では、そのように管理できていると思います。撹拌により成分や酸素濃度など環境の均一化し、工程(培養)期間中において継代や培地交換のような操作を必要としないように細胞源を選択、環境条件をPPsとすることで工程のクリティカリティが制御できます。
 これに対し細胞加工製品は、幹細胞(接着細胞)を原料として選択、培養する製造であるので、従来の製造手法(流加培養など)を採用することが難しいです。ここで、セオリー通りに工程設計を考慮するならば、浮遊培養化、継代操作を要しない基材、連続培地交換、全量交換を必要としない培地など、従来のラボスケールでは用いなかった培養(製造)技術を新たに構築すべきなのかもしれませんが、多くの細胞加工品製造設計では、現在のラボスケールのプロセスを踏襲してそのまま大きくすることを前提とします。
 これにより、プロセス中の止まらない変化(生反応)を中断して作業を行う、常識的に考えると珍妙な工程設計が、商業製造への技術移管において検討が必要となりました。これは、例えると世界ラリー選手権のスペシャルステージのようなもので、許容される作業時間はゼロが理想値で、時間は短ければ短いほど良い状況だと考えます。実際には、さすがにゼロは不可能ですので、我々は、開発段階で目標タイムを定め、そのタイムを目指し車両の(PPs)制御を行います。本番(承認後製造)に向け、我々はチームとして全員が同じタイムとなるように訓練します。ただ、ここでタイムを統一することができたとしても、環境(道路の状況)や作業者の個体差(クセ)などにより、その緩急(二次CPPs)にはばらつきも生じます。結果として操作する車両に生じるダメージ(影響)は、エンジン、ボディ、足回りなど、クルマごとにバラバラ(同じとならない)と想定します。細胞加工品製造でも同様と考えます。その場合、主パラメータさえ合わせれば、このようなアウトプットの差異を無視して、同等のプロセス制御であったとの判断は、必ずしもできないであろうと考えます。

 

 

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