新しいGMP教育訓練像を求めて【第1回】

"はじめに
 現在(2016年)の日本の医薬品生産額は、年間約7兆円を超えると推定されている。また、平成26年度(2014年度)の厚生労働省の医薬品産業実態調査 (対象336社)によれば、医薬品産業の合計就業者数は約17万人であり、そのうち製造部門の就業者数は約4.3万人(約25%)を占めていた。一方でウィキペディアの「製薬」の項の記述は、日本の製薬企業の数は2000社(出典の記載なし)を超えると記載されている。
 これらの数字を踏まえると、恐らく4~6万人を超える人々が医薬品のGMP(Good Manufacturing Practice)、すなわち「医薬品製造において最低限の守るべきルール」に関わっていると推測される。
 この連載の意図は、このように多くの人々が係わるGMPでの教育訓練のあり方を、約10年後の将来の姿を想定して、どの様なシステムの構築を目指すべきかについての問題提起である。つまり、この連載はGMP教育訓練の「テクニック」を述べるものではなく、製薬工場の経営陣、管理者、教育訓練担当者そして人事部門担当者が、今後のGMP教育訓練をどの様な方向で考えるべきかを考える契機として役立つことを目指している。また、この連載は、1回毎のテーマ完結方式で行う。
 
1.これまでのGMP教育訓練の管理戦略の歩み
 国内におけるGMP教育訓練についての系統的研究は、日本PDA製薬学会の関西勉強会(KSG)の活動を嚆矢とする。稲津邦平先生の指導の下に、その最初の成果は1999年4月に『GMP教育訓練マニュアル』として公表された。その後、稲津先生から活動を引き継いだ井上国見先生により、2007年7月に改訂版が出版された。
 しかし作業者のGMP教育訓練の問題を深く議論すると、「管理者のGMP教育訓練」という問題に突き当たってしまう。KSGは管理者のGMP教育訓練の研究を2008年から開始し、2009年には「管理者のGMP教育」と題してPHARM TECH JAPANに6回の連載を行った。その研究成果を基に、2010年4月には「管理者のGMP教育訓練セミナー」を開催した。更に2012年の日本PDA製薬学会の第19回年会で「管理者と経営陣へのGMP教育」と題する報告を行った。このような長期間の活動にも関わらず、製薬企業の経営者及び管理者層へのGMP教育への関心は、殆ど進展が無かった。
 実はこの事実に、効率的で、かつ実効性のあるGMP教育システムを構築する上での問題点が存在している。GMP教育訓練システムを構築する上で、有能な管理職の存在は不可欠である。しかし管理職に対する教育や訓練は、実はその企業の人事管理や能力開発のシステムに属する問題なのである。当然であるが企業にあっては、それらのシステムはGMPシステムの上位に存在するものであり、GMP教育訓練の担当者や責任者が努力して改善し、向上を目指す範囲を超えた存在である(図1)。このことは事前に承知がされていたが、管理職に対するGMP教育訓練の重要性を製薬企業に対してアピールしただけでは、人事管理システムなどの変化は生じないという厳しい現実を突きつけられたのであった。
 企業の人事管理システムなどは、医薬品産業という特性よりも、産業界、ひいてはグローバル化した社会の動向に大きく左右されるものである(図2)。経済や科学技術の急速な発展は、グローバル化と社会・経済の変化を加速させている。この視点からKSGは2015年の日本PDA製薬学会 第22回年会に「転換期を迎えたGMP教育訓練」と題する報告()を行った。ここで新たに提示された問題は、短期間の非正規社員のGMP教育の問題である。今やGMP教育訓練のあり方は、GMP管理システム内のみでは、処理しきれない現状を迎えている。
 この第1回の連載の題目に「管理戦略」の用語を用いた理由は、GMPシステムと人事管理システムを併せた形でGMP教育訓練システムの10年後を目指すという意味を込めている。



図1 製薬工場におけるGMP教育訓練システムの位置づけ



図2 GMP教育訓練を取り巻くグローバル化と社会構造の変化(

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