ドマさんの徒然なるままに【第49話】poor GMP・後編


第49話:poor GMP・後編

前「第48話:poor GMP・前編」では、2021年4月28日付けで発令され、同年8月1日から施行されている「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の一部を改正する省令(改正GMP省令)」をベースに第10条までの、なんとなく“ありがち”や“やりがち”なことを紹介しましたので、本話では、第11条以降について、もろ私見のコメントを付して紹介したいと思います。

なお、紹介している項目には、過去話の中で一度登場させている会社さんの話や驚きの運用の話も織り交ぜておりますが、それだけ“ありがち”や“やりがち”を強調したいための再登場ということでご容赦いただければ幸甚です。

 

第11条 品質管理

  • 最終製品(所謂、保存品)はマトモに温度管理されている場所で保管しているものの、製造に使用した原材料等(所謂、参考品)については、かなりラフに保管している会社(製造所)

【コメント】
保管場所のスペースの問題ということは理解しますが、あまりに差があると疑問を感じます。原材料でも温度の影響を受け易く、後日の品質評価に際して影響を及ぼすものもあります。必要に応じて区分けした一緒の施設が利便性込みとして理想と言えますが、違えざるを得ないのであれば、せめて管理の度合い(温度・セキュリティ・記録等)は合せて欲しいものです。

  • 包装表示を行っている製造所なのに、「限度見本の取り扱い」が曖昧な会社(製造所)

【コメント】
包装表示業務の最大の問題は、それが良いか悪いかのチェックのはずです。それにも関わらず、「限度見本」そのものの保管管理場所や手順(SOP)が無いのは変です。外観検査員の教育訓練にも必要になるはずです。また、「限度見本」そのものが変色等する製品であれば、見本そのものの定期的なチェックも必要になります。

第11条の2 安定性モニタリング

  • 頻繁に安定性モニタリングによる規格割れの回収を発生させる会社(製造所)

【コメント】
第34話:不可解なPV」でもお話させていただきましたが、加速試験は長期安定性試験データを保証しうるものではないですし、実機・実スケールではないProcess Validationの価値は、どれだけのものなのか(バックグラウンドデータの質と量に依存するはずです)。もっと科学的に評価・判断していただけませんか? 少なくとも安定性モニタリングは、あくまで“品質の状態監視”であって、承認後における“長期安定性試験の代替”や“実証実験”ではありません。それとも、「昔は安定性モニタリングなんて要件に無かったので良かったですねー!?」という皮肉をお望みでしょうか。

第11条の3 製品品質の照査

  • 実施してはいるものの、その照査結果に基づく改善計画と実行および評価、必要に応じてのさらなるアクションといったPDCAサイクルが明確でない会社(製造所)

【コメント】
悪く言えば、「要件とされてしまったので仕方なくやっている」というのでは困ります。あくまで、貴社(貴製造所)、しいては患者さんのための品質の維持・向上のために必要な作業であることを理解してください。

第11条の4 原料等の供給者の管理
第11条の5 外部委託業者の管理

  • 品質リスクマネジメントに基づいているとは思えない(感覚的に適当に抜き取って行っていると思われる)サプライヤーや委託先の管理

【コメント】
原材料サプライヤーや外部委託先の“すべて”なんて言い出したら、とんでもない数になるんじゃないでしょうか。こういう場合こそ、品質リスクマネジメント(FMEAのようなformalな方法でやれということではない)の出番なんじゃないかと思います。会社(製造所)としてのリスク分類を行い、それに合わせての実地監査/書面監査(調査)/必要に応じて(イザとなった場合に限定)の監査などを合意(出来ればQuality Agreementだが、供給品や供給相手によってはビジネス契約書の中に盛り込むことでも可)しておいては、いかがでしょうか。

  • 数で勝負しているとしか思えない委託先監査
  • 重箱の隅を突くような、どうでもいい指摘をしたがる監査者

【コメント】
自己点検や教育訓練と同様に「記録残し」が目的となっては本末転倒です。さらに、委託元としても委託先としても時間とカネの浪費です。あくまで、品質リスクマネジメント(前述同様、formalな方法でやれということではない)に基づいて、相手先もその頻度も絞って実施しないと大変なことになります。
また、実地監査を実施したからといって、“どうでもいいとしか言いようがない指摘”は止めましょう。委託元の自社としても指摘された受託業者としても、時間とカネの無駄でしかなく、悪く言えば、「弱い者いじめ」です。

第12条 製造所からの出荷の管理

  • 製品数とQA人員とが、どう考えてもマッチしていない会社(製造所)

【コメント】
ジェネリック医薬品会社による不始末があまりにも多いことから、数年前からこの点のチェックも入るようになりましたが、監査における「事前質問状」からも(嘘をついていないのであれば)分かる話なんじゃないかと思います。少なくともQAの出荷業務を経験 or 理解している者ならば、その大変さは認識しているはずであり、ミスマッチは「マトモに記録をレビューしていない(出来るはずがない)」と判断するんじゃないでしょうか。

第13条 バリデーション

  • 許可区分や業態に見合わないバリデーションがSOPに記されている会社(製造所)

【コメント】
包装表示許可区分における外観検査のみの作業に関わらず、分析法バリデーションの記載があったり、無菌製品が無いにも関わらず、バリデーションの例として無菌プロセスのバリデーションがバリデーション手順書に記載されているのを見かけたことがあります。もろ、どこからかのパクリなのでしょうが、たとえパクるのであっても、少しは考えろよ、と言いたいところです。

第14条 変更の管理

  • 当該製造所に見合わない変更管理手順になっている会社(製造所)

【コメント】
これまた、どこからかのパクリなんでしょうが、当該製造所の作業には無い事項が変更管理項目に例示として挙がっていることがあります。ちょっとは考えて作成しません?

  • 製造販売業者のGQPとしての変更管理手順書としか言いようがない内容になっている会社(製造所)

【コメント】
承認事項との整合を気にするあまり、良く言えば、受託製造会社としてお客様のためにということなのかもしれませんが、立場が異なります。製造販売業者との連携や承認事項との整合ということと、変更管理手順書の“同一使用”とは異なります。

第15条 逸脱の管理

  • 当該製造所に見合わない逸脱管理手順になっている会社(製造所)

【コメント】
これもどこからかのパクリなんでしょうが、当該製造所の作業には無い事項が逸脱管理項目に例示として挙がっていることがあります。バクリもいい加減にしろよと言いたくなります。

  • 逸脱の管理記録としか思えない逸脱管理手順書になっている会社(製造所)

【コメント】
記録保存のための手順は詳しいが、当該製造所においてどういうことが逸脱に相当するかの定義も例示もなく、さらには、初期処理した後での改善についての記述がラフなことはありませんか? 本来のCAPAとして、キチンとPDCAサイクルを回して向上に努めてくださいね。

第16条 品質情報及び品質不良等の処理

  • 委託元の製造販売業者からの「問い合わせ」や「確認依頼」は苦情でも何でもないとして取り扱う会社(製造所)

【コメント】
受託製造業者にとって、委託元の製造販売業者からの「問い合わせ」や「確認依頼」は、それが自社としての品質の問題でなかったとしても、「品質情報」の範疇だと思いますよ。本条、過去には「苦情処理」であり、PIC/S GMPでも「COMPLAINTS(苦情)」だからと言って、勝手に「苦情ではない」とするのはいかがなものでしょうか。ましてや、苦情じゃないから苦情記録にも残しておかないとするのは問題です。「製造販売業者and/or関係者から問い合わせがあったが、品質においての問題は無いと回答した。」と記録を残すべきだと思います。ちなみに、「何も無かった」というのは大事かつ立派な記録です。

  • 現実対応不可能としか言いようがないほど形式的な品質不良等の情報処理手順となっている会社(製造所)
  • 事の発端がどこから出て来ているもので、どこにバトンタッチするのかが不明な手順となっている会社(製造所)

【コメント】
どんなに立派な「品質情報及び品質不良等の処理に関する手順書」があっても、実際に苦情といった事態が生じた際に行動できなければ意味がありません。事案・事由によっては、次項の「回収処理」に連動するアクションが必要であることも認識・周知しておくことが求められます。

第17条 回収等の処理

  • いちいちSOPを見ながらでないと連絡1つ出来ない会社(製造所)
  • モック回収の必要性も意味合いも理解できていない会社(製造所)

【コメント】
もろに上記の「品質情報及び品質不良等の処理」と連動する内容です。まずは連絡が入って、それから回収等のアクションに繋がるはずです。しかも一刻の猶予も許されないとは言わないまでも、迅速な対応が求められることは事実です。そんな緊急事態に際して、立派なSOPが存在し立派な内容が記述されているにも関わらず、現実の行動が図れないということは避けたいことです。ちなみに、PIC/S GMPでは、「CHAPTER 8 - COMPLAINTS AND PRODUCT RECALL」となっています。
皆さんの会社でも年1回程度は、火事や地震を想定して避難訓練をやるんじゃないでしょうか。何のためにやるかは、まったく同じですよ。実際の火事や地震で逃げ遅れれば、あなたは死ぬかもしれない。回収であれば、患者さんが死ぬかもしれないと考えてください。

第18条 自己点検

  • 指摘改善のほとんどが「Due Date不明」で延々と継続している会社(製造所)
  • 毎年同じ点だけを、しかも改善状況ということでなくチェックしている会社(製造所)

【コメント】
率直に申し上げます。このパターン、程度の差こそありますが、かなり多いです。「意味ないじゃん!」と自分たちで思いませんか? そうです。時間と労力の無駄です。

第19条 教育訓練

  • 評価が不明あるいは曖昧な教育訓練記録をひたすら残している会社(製造所)
  • 作業とマッチしていない教育訓練ばかりを実施している会社(製造所)

【コメント】
「教育訓練記録を残すこと」が目的となっているようにしか思えません。まずは、教育訓練の目的を再認識しましょう。あくまで、職員のクオリフィケーションだと思います。

  • GMPとは直接関係のない教育訓練、例えば“人事部実施の研修”までも「個人ごと教育訓練記録」としてバインディングしている会社(製造所)

【コメント】
コプライアンス研修といった、一般的にもGMP的にも通用する内容のものであれば、(ちょっと違うとは思いますが)必ずしも否定するつもりはありません。また、会社のシステム上、個人ごととして1つにバインディングしておくほうが簡便という会社さんであれば、バインディング内での仕分けありとして理解します。ただ、どう見ても「これ、違うんじゃね!?」という内容のものを一緒くたに扱うのは誤解の元です。そもそも、この「個人ごと教育訓練記録」の管理を行っているのは、どの部署の誰なんですか?

第20条 文書及び記録の管理

  • キーボックス内の鍵はいつ、だれでも持ち出せる状態で持ち出し記録が無い and/or 日常的には施錠されていない等、いい加減な文書管理を行っている会社(製造所)
  • すべての文書(当然、記録も含まれる)の保存期間が一律に「永久」と書かれている、一方でその具体的な保存方法に触れられていない文書管理手順書の会社(製造所)

【コメント】
ときに、文書管理が結構いい加減としか言いようがない会社さんを見かけます。率直に申し上げますと、文書管理をどれだけ重要視しているかは、その保存状態を見れば何となく判ります。
また、「永久」と書くのは勝手ですし、実際にそれを実行しているのであれば、それはそれで結構ですが、将来的に困りませんか?*1 後任の文書管理責任者にとっても、何代か続けば負担がのしかかってしまうような気がします。そもそも文書の重要性や必要性にも差があるはずです。そうだとすれば、(法規制上の最低保存期間を満たしていれば)その後の廃棄等の処理に差(保存期間の長短)があって然るべきだと考えます*2

 

 

前話と本話の2回に分けて、違反といった致命的な事項ではなく、直接的に品質には影響していないものの、何となく疑問を感じる“ありがち”and/or“やりがち”な行為を列記しました。

これら(問題とまでは言い切れないので)課題や疑問点は、ハッキリ言って、よほど客観性・中立性を重視し、GMPの本質を熟知したハイレベルの者による自己点検でもない限り、自社(自製造所)で発見するのも難しいような気がします。逆に言えば、自己点検で見つけられない(あまり意識しない)故に、見逃されてしまうという結果に至っているとも言えます。

せっかく見つけても、ビジネス上の管理職から圧力をかけられて何も出来ないなんて会社(製造所)も中にはあるようではありますが・・・。

それらをどのように是正するかは貴社(貴製造所)にお任せとなりますが、長く気づかない状態でいればいるほど、傷が深まり機能不全に陥ります。“GMPの機能不全”は、いつの日か(気づいた時には遅すぎるという)重篤な逸脱や回収という品質問題の症状として現れます。そういう観点で、前話と本話で、余計なお世話として「早く気づいて、是正できるのであれば早く是正しましょう!」とお伝えしたかった次第です。

こんな気づかない(気づきにくい)傷(?)が、度を超すと、もろ“ヤバイ”話となります。もはや「Good Manufacturing Practices(GMP)」ではなく、違反集とも言うべき「Bad Manufacturing Practices(BMP)」となってしまいます。BMP、「Bad Manner Practices」の略とも解釈できますね。気をつけましょう!

 

では、また。See you next time on the WEB.

 

 

【徒然後記】

今年はブラボー! でありますように
読者の皆さん、新年あけましておめでとうございます。今年も「ドマさんの徒然なるままに」のご愛読のほど、よろしくお願い申し上げます。
さて、昨年は歴史を刻むようなことが色々ありましたね。ロシアのウクライナ侵攻、新型コロナウイルス/オミクロン株の拡大、安倍元首相の銃撃事件とそれを切っ掛けとした旧統一教会問題、32年ぶりの円安に加えての物価高、そして異常気象、等々。
良いことは? として思い浮かぶことと言えば、北京冬季オリンピックやサッカーWCカタール大会、日米の野球界の新記録といったスポーツ界のことぐらいでしょうか。
個人的にどうかと記憶を辿れば、とりわけ悪いことも無かったですが、良いことは浮かばない。端的に言えば、物価高で生活費の負担増による悪化傾向と言った感じでしょうか。新たな年が始まったばかりですが、今年こそは、個人的にも世界的にも「今年はブラボー!」と言えるようになることを願います。


--------------------------------------------------------------------------------------

*1:電子的に保存するのであれば、スペース的には確保できると考えますが、紙ベースの保存となると、スペースの問題のみならず、ボロボロにならないような湿度管理まで必要になるんじゃないかと思います。いずれにせよ、Data Integrityを押さえなければならないとは思いますが・・・。
 
*2:私の知る限り、法定文書であっても一律に「永久保存」とはされていないはずです。

 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます