ドマさんの徒然なるままに【第48話】poor GMP・前編

第48話:poor GMP・前編
あれやこれやとコンプライアンスが問われる時代となっていますが、わざわざコンプライアンスを声高に言わないと、法規制や社内外のルールに従わない輩が出て来るような嫌な時代になってしまったんでしょうか。
製薬関係者としては、「「製造販売業者及び製造業者の法令遵守に関するガイドライン」について」や「「薬事に関する業務に責任を有する役員」の定義等について」などが発出されている*1ということは、それだけちゃんと法令遵守していない会社さんがあるということなのかもしれません。もしそうであるならば残念と言わざるを得ません。
そんなこともあり、2021年4月28日付けで発令され、同年8月1日から施行されている「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の一部を改正する省令(改正GMP省令)」*2をベースに、本話では、GMP省令違反とまではいかないまでも、皮肉込みで「まさか、こんなことしていませんよね?」といった、なんとなく“ありがち”や“やりがち”なことを(抜粋はしていますが)条項の順に沿って本話と次話の2回に亘って、もろ私見のコメントを付して紹介したいと思います。
なお、紹介している項目には、過去話の中で一度登場させている会社さんの話や驚きの運用の話も織り交ぜておりますが、それだけ“ありがち”や“やりがち”を強調したいための再登場ということでご容赦いただければ幸甚です。
第3条の2 承認事項の遵守
- 「うちは、承認事項に基づいて製造しています。」とか、「変更管理は委託者(製造販売業者)さんの承認なくしては変更を実施しませんので齟齬はありません。」と、くどいほど強調する受託(製造・試験検査)業者や海外認定製造所
【コメント】
信用・信頼・安心として言うこと自体は結構ですが、本来は“当たり前”のことですので、その点を踏まえて不備が無いようにしてくださいね。それだけです。あくまで、結果がすべてであって言い訳無用であることをお忘れなく。ちなみに、「過ぎたるは及ばざるが如し」という印象を与える可能性もありますので、ご注意ください。
- “Quality Culture”を筆頭に、その時々のキーワード(流行り文句)を声高に謳いたがる会社(製造所)
【コメント】
医薬品に限らず何でもそうですが、ブームの言葉を使うのは勝手ですが、使う前にまずは“真の意味”を理解し、“少しでも実践”してから言って貰えません? その時点で既に中身として実践している会社(製造所)は、“当たり前”だとしか思っていないので、わさわざ謳わないと言ったら、言い過ぎでしょうか。
第3条の3 医薬品品質システム
- 医薬品品質システムをGMPと区別したがる会社(製造所)
【コメント】
所謂ICH Q10のPQS(Pharmaceutical Quality System)のことで、PIC/S GMPとの整合として追加された要件ですが、GMPは医薬品品質システムの一部です。もう一度キチンと認識したほうが宜しいかと思います。それ以前の話かとも思いますが、「医薬品の品質とは、誰のために、何のためにあるのか?」ということを自分自身に問い直すことをお勧めします。少なくとも、「医薬品の品質は安全性と有効性の源」であり、その品質が崩れれば、安全性と有効性を担保することは出来ません。
そう言えば、同じ会社や系列会社なのにGMPとGQPをまったくの別物と解釈し運用する会社さんもあったりするような・・・。
- 何となくどこかで見たことがあると感じる内容と表現の「品質方針」および「品質目標」の会社(製造所)
【コメント】
「第8条 手順書等」にも記しましたが、行政や薬業団体などからのパクりやマネは止めたほうが良いと思います。SOPと違って、自社(自製造所)としての意識を明確に示すものです。むしろ社員(職員)に分かり易い平易な言葉・表現のほうがベターなんじゃないでしょうか。不似合いなくらい立派(悪く言えば、高望み)ですと、宙に浮いてしまいますよ。
第3条の4 品質リスクマネジメント
- 「うちは、品質リスクマネジメント(QRM)としてFMEAを行っています。」と言いすぎる会社(製造所)
- QRMと言っている割には、どう見ても結果で対応しているとしか思えない会社(製造所)
【コメント】
ICH Q9自体は、本邦でも2006年にガイドラインとして発出されております*3ので、ハッキリ言って“今さら”ですから、そこんとこを宜しく。さらに言えば、FMEAだけがQRMじゃないですからね。言うのは勝手ですが、目的や意図も考えずにむやみに言い張ると、嫌味と言うか、逆効果ということも在り得ます。ひねくれた性格の筆者などは、「では、」として、監査で突っ込みのチェックをしたくなります。
さらに言わせて貰えば、結果論で言わないでくださいな。QRMの本質は、あくまで“Potential Risks”に対して行うものですよ。既に顕在化しているリスクならば、何か手を打っているんじゃないでしょうか。打ってない? それじゃ、ダメに決まってるじゃないですか!
第4条 製造部門及び品質部門
- 組織形態としての部門の独立性だけを示したい会社(製造所)さん
- 品質管理業務と品質保証業務の相違を理解せず*4、またSOPに定義を明記せずに曖昧なまま、それぞれの名称だけはシッカリと付けている会社(製造所)
【コメント】
「名は体を表す」とは限らないです。あくまで“中身”としての業務にフォーカスしてくださいね。少なくとも、「名前負け」や「看板倒れ」は勘弁願いたいものです。ちなみに、各部門が“正常に”業務をこなしていれば、必然的に“独立した状態”になっているはずです。
- 製造管理者との関係が不明瞭なQA部門の組織と組織図
【コメント】
製造管理者を頂点として、製造部門・QC部門が縦軸で、QA部門はその横に枝分かれさせた組織図や製造管理者の真横に繋がれた組織図をよく見かけますが、その意味合いを業務実態として示してくださいね。ビジュアルとしてはOKだとしても、実態が伴わなければナンセンスですよ。
第5条 製造管理者
- 薬剤師ということだけで雇われているとしか思えない(自分の役割と責任も工場の状況も見えていない)製造管理者
- 研究オタクとしか思えない生物学的製剤の製造管理者や再生医療等製品の製造管理者
【コメント】
これらは、異業種からの医薬品事業参入の場合に多いように思えます。元々が製薬会社でない場合には、資格要件としての薬剤師やバイオ・細胞組織等の経験者の確保が難しいことは承知しています。が、だからと言って、省令上の資格要件である薬剤師というライセンスやその分野の学術的知識だけで製造管理者として採用して大丈夫かと問われれば、必ずしも現実の製造管理者としての適格性を満たしているとは言い難いと言わざるを得ません。
製造管理者の役割と責任、大学で教えているものでも、製薬会社の研究所で教えているものでもないことも事実です。
それを踏まえて、雇用側として採用時に実務経験を確認することは勿論ですが、採用された側としても、採用前から、遅くとも採用決定から業務開始までの期間に勉強しておくべきなんじゃないんでしょうか。もしそれが無理だとしても、せめて入社時から最初の1ヵ月くらいは必死で勉強しなければならないと考えます。それ込みとしての採用だと思いますが、いかがでしょうか。
- 日常業務としては一般のQC担当者やQA担当者なのだが、薬剤師ということで製造管理者を兼務(?)している品質部門
【コメント】
日常のQCやQA業務で上司のQC長やQA長がミスしたら、製造管理者としてどうするんでしょうかね? 自身がミスすることだって在り得るでしょうし・・・。上司・部下の関係が、ビジネス組織とGMP組織で逆転するような状況は運営そのものが疑問でしかありません(過去、実際にそんな受託製造業者が存在しました)。そもそも製造管理者って“兼務の副業務”ではないと思うのですが・・・。
第6条 職員
- 形式的(省令記載の通り)でしか自身の役割と責任について述べることのできない職員
【コメント】
あくまで経験に基づく個人的意見(感想)ですが、監査で「責任者(or 管理者)としてのあなたのお仕事は?」と尋ねた際に、SOP記載の通りを暗唱したように答えた場合は???だと思っています。暗記していることを期待している訳ではありませんので、自身の言葉で具体的に答えてくれることを期待します。
- 同一製造サイトにも関わらず、監査の応対者(職員)によって別サイトのように思える(雲泥の差がある)製造所
- GMPに無関係の部署からの異動により品質保証担当の課長や部長になっている会社(製造所)
【コメント】
応対者(例えば、基本QA部長か副部長かといったこと)により、当該製造サイトの本質的なレベルに疑問を感じてしまう場合があります。一般論として個人の資質や能力に差があることは理解しますが、あくまでその役目として任命しているのであれば、個人差を埋めるような教育訓練、しいてはクオリフィケーションが出来ていることが前提だと理解してください。
先の「第5条 製造管理者」にもコメントしたように、一定の期間にシッカリと教育訓練を受けてから実務に就くというのが前提であり、それが本来の教育訓練だと思いますが、いかがでしょうか。
第7条 医薬品製品標準書
- 変更管理もシッカリとやっており承認事項と齟齬も無いと言いながら、その割には改訂頻度が少ない製品標準書
【コメント】
製品標準書は、変更管理・承認事項と連動しているはずなんですがねー。。。えっ、製造販売業者での品質標準書とも齟齬があるって? ダメだ、こりゃ!
第8条 手順書等
- どう見ても、どこからか(例えば、地方行政や団体など)パクった or コンサルタントに作成して貰ったとしか思えない、実務・実態にそぐわないSOP
【コメント】
新規事業としてのGMP組織の立ち上げといった場合において、既存の手順書見本を“参考”に用いて新規作成することは理解しますが、運用に入ったら実態に合わせて可及的速やかに改訂すべきだと思います。
- 改訂履歴欄の改訂理由に「定期見直しによる改訂」がやけに目につく(場合により延々と続く)改訂履歴
- 「GMP省令等の改正に伴う確認」がタイムリーに行われていない改訂履歴
【コメント】
定期見直しは自動更新ではなく、あくまで記載事項と実態の齟齬の有無をチェックすべきでしょう。一方で、GMP省令の改正や自製造所に関連する通知等の発出があった場合などは、定期見直しとは別に、タイムリーに規制との整合を確認すべきだと思います。
- 「必要に応じて」、「原則として」、「なお」、「ただし」などが多すぎるSOP
【コメント】
これら文言の多用は、手順そのものを曖昧にし、あらかじめ逃げ場を作っておく運用に思えるのですが、読者の皆さん、どう思います?
第8条の2 交叉汚染の防止
第9条 構造設備
- クロスコンタミ防止として金をかけてハード面はそれなりに対応しているものの、現実の運用や作業員の認識が十分とは言い難い会社(製造所)
【コメント】
完全無人化でもしない限り、ソフト面での対応も必要になりませんか? 仮に完全無人化していても、メンテナンスやシステム管理にヒトは関わりますけどね・・・。
ちなみに、ハード面ばかりを強調したがる or 紹介したがる会社(製造所)って、ちょっと危ないと感じることが多いと言ったら叱られるでしょうか。
第10条 製造管理
- 表面的にはともかく(一応QA承認となっている)として、実質的には「製造指図・記録(書)」の管理(承認以外の作成・改訂・発行・保管の一切)を製造部門が仕切っている会社(製造所)
【コメント】
最近の某講演の中、指摘の話として「製造指図原本を品質保証部門が確認していなかった」なんてものがあったようですが*5、そうではなく、MBR(Master Batch Record)システムを採用すれば、根絶はともかく(組織ぐるみは難しい)として、問題はかなり解消されると思っています。「第33話:まぼろしのMBR」でも述べましたが、なぜ本邦では要件として正式採用しないんでしょうかね? GMPの根幹となるシステムですから、何気なく、さり気なくの曖昧な表現でやらせようとする姑息なことは止めたほうが宜しいように思います*6。
GMP省令違反とまではいかないのですが、何となく“ありがち”や“やりがち”な対応を列記してみました。単に、やり方が「甘い(soft)」とか、考えが「甘い(optimistic)」と言うよりは、むしろ意図も手法も「稚拙(poor)」といったほうが適切でしょうね。
こんな、ちょっとマズイよなーといったことが散見され、続けていれば、現時点ではコンプライアンス違反とまでは行かないとしても、いつかは“GMPの機能不全”に陥ることは明白です。何かしら問題が生じますよね。受託業者さんであれば、行政査察以前に委託者から監査等で間違いなく指摘を受けるでしょうし。さらに機能不全の症状が発現すれば、“違反予備軍”に至るとも言えます。
本話では、GMP省令の第10条までの「やっちまったな」的な???な運用を紹介しました。次話では、後半として第11条以降の「およよ!?」な内容を紹介したいと思います。
ちょっと早いですが、読者の皆様方にあっては、良いお年をお迎えください。
【徒然後記】
カンカン(康康)とランラン(蘭蘭)
カンカンとランランと聞いて、上野動物園にいたパンダだと分かる方がどのくらいいるだろうか。日中友好の証しとして、1972年10月28日、筆者が高校3年のときに日本に初めて来たオスとメスのパンダである。既に10月は過ぎてしまったが、今年2022年はちょうど50周年にあたる。
翌年の1973年、大学受験に合格して首都圏近郊の大学に通うことになった。GW明けの天気の良い土曜日、午前の授業(当時は土曜日の午前中まで授業があった)が終わり下宿に戻ろうとすると、同級生の女子が「天気良いね。これからどうするの?」と声をかけてきた。「そうだね。天気も良いし、どこかに行きたい感じだね。」と言ったら、「帰るの同じ方向だよね。一緒に帰らない?」と尋ねて来た。と言うことで、電車に乗る。しばらくして、何気なく「上野動物園のパンダが見てみたいな。俺は下車駅越えちゃうけど、君は途中下車だよね。良ければ、一緒に行かない。」と誘ってみた。すると、「OK」と一発返事。そこで見たのが、カンカンとランランであった。当たり前だが、生きているパンダを見るのは初めてであった。
今にして思えば、それが俗に言うデートの初めての体験でもあった。男子校出身の筆者にとっては、同じくらいの歳の女性とデートどころか会話する機会さえなかったのである。その時は、これがデートだとも思っておらず、単にパンダ見たさで上野動物園に行っただけ。しかし、それが縁となり、彼女と付き合い始めた。そう、彼女こそが将来の妻であった。半世紀も前の話ではあるが、今でも忘れない。その時には41年後に先立たれることまでは予想もつかなかったけれど、幸せだったよ。ありがとう。
ちなみに、10月28日は、カンカンとランランが来日した日ということで、上野動物園としては「パンダの日」だそうです。
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・令和3年1月29日付け薬生発0129第5号「製造販売業者及び製造業者の法令遵守に関するガイドライン」について」
・令和3年2月8日付け事務連絡「製造販売業者及び製造業者の法令遵守に関するガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)」について」
・令和3年1月29日付け薬生総発0129第1号、薬生薬審発0129第3号、薬生機審発0129第1号、薬生安発0129第2号、薬生監麻発0129第5号「薬事に関する業務に責任を有する役員」の定義等について」
・令和3年8月17日付け事務連絡「許可等申請書における「薬事に関する責任を有する役員」の氏名記載にかかる取扱いについて(Q&A)」
・令和4年4月28日付け薬生監麻発0428第9号、薬生安発0428第3号「医薬品製造販売業者及び医薬品製造業者に対する調査への責任役員の同席について」
ちなみに、改正案Q9(R1)については、2022年11月25日現在、step 3のパブコメを終え最終化段階と思われます。
比較的大手の(悪く言えば、業務が細分化されている)製造販売業者さんが委託等をお願いする場合、この点を承知して打合せをしないと話が噛み合わないといった事態が生じる可能性がありますので、ご注意ください。
【参考】
製薬協/2022年度GMP事例研究会「改正GMP省令について -最近の指導事例を中心に-」
https://www.jpma.or.jp/information/quality/jirei/gbkspa00000017ws-att/2022_1.pdf
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