ドマさんの徒然なるままに【第34話】不可解なPV


第34話:不可解なPV

第1章:PVって、GMPと同時上陸したんだよねー。

ここで言う“PV”とは、ご承知のようにProcess Validation(プロセスバリデーション)のことである。本邦では、承認申請時および一変相当の変更時などでGMPの必須要件として求められる。しかも現行では、原則、実機・実生産スケールでの連続した3ロットの成功が求められる*1

PVについては、GMPが1970年代に日本に上陸する(1980年に省令化)と同時に「コレッてなんだ?」と思われた言葉であり、概念だったんじゃないかと思う。その後、2011年1月に米国FDAから発出された「Process Validation: General Principles and Practices」*2と2012年3月にEMAから発出された「Guideline on Process Validation (Draft)」*3により、その概念と運用が大きく変わったものの、バリデーションの品質における重要性についてはより強調され、本邦においては今般の「バリデーション指針」*1に至っていると考える。

しかし残念ながら、もろ“GMPの肝”であるPVであるにも拘らず、その本来の目的に沿った形で実行されているか疑わしいと感じさせる事案が起こっている。結論から言おう。安定性モニタリングで、溶出性や含量などが規格外れになってしまっての回収が頻発しているが、これって、本来のPVが成立していないからなんじゃないかと思えるのである。屁理屈と思うか、その通りと思うかは読者の皆さんの勝手であるが、もう一度PVの意義を見直してほしいという願いを込めて本話を記す。

ちなみに、本話はPVの意義の話ではあるが、PVそのものの解説や手順といったものではありませんので、その点をご了承ください。
 

第2章:PVって、工程の“検証”のはずだよねー。

製造工程の検証(実際に物事に当たって調べ、仮説などを証明すること)って、工程の安定化の確認でもあるよね。少なくとも、今般の一部改正GMP省令に伴う施行通知*1における本邦の「バリデーション指針」には、プロセスバリデーションとは、「工業化研究の結果、既存の類似製品の製造実績等に基づく製品品質への影響要因(例えば、原料等の物性操作条件)を考慮して設定した許容条件の下で工程が稼働し、求められる品質の製品が恒常的に得られる妥当な工程である旨を検証し、文書とする。」とある。

そうだとすれば、PV成立後の製品は品質基準を満たすことは当然のことながら、その安定性も確保されているはずだよね。その結果の確認の意味合いも踏まえて安定性モニタリングも実施される。しかしながら、安定性モニタリングでの規格外れのための回収事案のなんと多いこと。確かに、長期安定性試験で溶出性や含量が外れたりすることは在り得ることではあるが、それにしても多すぎるような気がする。同一の製造所であったり、同一の製品であったりすれば、確率的にも問題ありすぎである。筆者のような元製造に関係した者としては、「ちょっと変じゃないの?」と思うのである。それって、PVが本当は成立してないんじゃない? そう思えてならないのである。
 

第3章:日本での承認申請時の安定性試験データって、実機・実生産スケールとは限らないんだよねー。

現実的な話をすると、実生産工場の方々って、意外と承認申請時のデータのことを知らないんですよね。技術移管としてテクニカルなことはCMC部門から伝えてもらえるんですが、開発時や申請時のデータって、必ずしも実生産の現場にマッチしている(マッチさせてある)とは限らないんですよ。逆に言えば、CMCの方々は、あまり現場のことを知らない。技術移管の際に初めて現場に入ったなんて方もおられますからね(委託製造となれば、尚更と言わざるを得ない!?)。

まして、申請用の安定性試験データのための原薬や製剤って、上市に向けた時間的な問題もあって、PV実施前の検体を使っていますからね。実機・実生産スケールって言うならまだしも、本邦での新規医療用医薬品(先発医薬品)であれば承認申請時に必要な安定性試験(ここでは長期保存試験を指す)*4は、ICH Q1 (R2)に基づいて、申請時点で最低12ヵ月(最小試験期間)の試験結果があれば良く、用いる検体については、「原薬の基準となるロットは、パイロットスケールロット以上。製剤の場合、3ロットのうち、2ロットはパイロットスケールロット以上で、1ロットは重要な製造工程が反映されているならば小規模でも差し支えない。勿論、生産スケールロットでもよい。」とされている(詳細は、脚注*4を参照のこと)。言い換えれば、原薬・製剤のいずれについても、実機・実生産スケールのロット(通常であれは、試作であってもGMPに準拠したロットになるであろう)でなくてはならないとはされていないし、ましてPV品とは言われていないということである。

皮肉っぽい言い方をすれば、「そりゃ、かなり違った条件と言うか、状態で製造された検体での安定性試験の結果をもって承認を受けていたら、そりゃ実生産品の安定性モニタリングで外れても仕方ないんじゃないでしょうか。」ってことになりはしませんかねー!?
 

第4章:PVが成立しており、その通りに製造していたら、安定性モニタリングでそう簡単に外れないんじゃないのかなー?

ただ、ここで大事なワンポイント。もし、実機・実生産スケールで行うPVが適切に実施され、本当の意味で成立していたら。そして、その3ロットの安定性試験が申請時と同様の結果を示していたら、それは科学的にはOKとみなせるんじゃないでしょうか。ただ、その後にもPV通りの作業と状況が実施されていたならば、ということにはなりますけどね。

ここで筆者が言いたいことは、お分かりであろう。現状では、申請時の安定性試験データはあくまで“参考”にしかすぎず、市場に出荷された製品の安定性モニタリングによるデータをどれだけ反映し予測しうるものか疑問があると言うことである。もし少しでも反映させようとすれば、申請前and/or 申請中、場合によっては承認後でのPV 3ロットの安定性試験データと申請時の安定性試験のデータを考察した上で、科学的差異がないことを照合し、加えて実際の製品の製造ロットに重篤な逸脱等、品質への影響がない(PVの結果が反映している)ことを確認した上で、安定性モニタリングでのデータをレビューするという作業が必要になるのではないだろうか。ただ、そこにはPVがどれだけ科学的検証と言えるシロモノなのかという前提がある。本話は、そんな問いかけなのである。

第2章でも触れたが、それでも安定性モニタリングが外れてしまうということが少なからずあることは認める。しかし、その発生頻度は極めて低く例外的と言えるのではないだろうか。少なくとも、同一製品で度々発生するなんて事態は無いと思うのだが・・・。

PVって言うと、「文書とする」という文言が幅を利かせすぎ、計画書と報告書にばかり目が行ってしまうきらいがある、といったら叱られるでしょうか。PVにおいて最も問題なのは、元製造屋からすると、評価項目の選定や評価基準の設定そのものの妥当性だと思うんですが。もちろん、3ロット成功し成立しての話ですけどね。PVが成功裡に終わらなければ、ICH Q8(製剤開発)やQ11(原薬の開発と製造)の意味さえないですよね。では、査察や監査でこういう点がどれだけチェックされているのか? それについては第6章で述べる。
 

第5章:ジェネリック医薬品の申請用安定性試験って、もっとすごいことになってるよねー。

先の第3章で述べたことは、先発医薬品の安定性試験の話である。これがジェネリック医薬品ともなると、もっとすごい。既に先発品での安定性が保証されている(第3章で触れだが科学的に本当か? 結果論で言ってないか?)として、ICH Q1 (R2)が採用される以前の通知*5に従ってさえいれば良いとされ、先発品が3年以上安定である場合、長期保存試験ではなく、6ヵ月間以上の加速試験をもって、3年以上安定と“みなされている”。ホンマかいな? と耳を疑いたくなるが事実である*6

そうかと言って、ジェネリック医薬品の加速試験がPV品で実施されているなんて話は聞いたことがない。先々は、より科学的根拠をもったデータということで、長期保存試験も要求されることになるんじゃないかと予測するものの、現状は、「安定性モニタリング=長期保存試験の実証実験」と言わざるを得ない*7。ハッキリ言って、そんな状況であるがために、ジェネリック医薬品の安定性モニタリングによる規格外れが多いという現実は、あくまで宜しくない結果論としては“筋が通っている(辻褄が合っている)”ように思える*8
 

第6章:査察や監査でどこまでPVをチェックしてます?

ただ残念なことに、日本での承認申請時の安定性試験データって、前述のように実機・実生産スケールとは限らない。しかも、“PVの成立”ということが科学的に適切に実施され、判断された結果なのか? PVにおける評価項目の選定や評価基準の設定そのものが妥当か否か、原点に戻ってチェックしないとやや怪しい点があったりする。

しかしながら、そういったチェックは経験者でないと細部までなかなか分からない。しかも、チェックには相当の時間を要する。せいぜい1~2日間程度の査察や監査の一部としてのPVのチェックでは時間が足らなすぎ、結局のところ、VMP(Validation Master Plan)・実施計画書・実施報告書・一部の記録のチェックで終わってしまうのが関の山なんじゃないでしょうか。

行政査察(少なくともPMDA)であれば、審査関係者の同行も可能でしょう。委受託等の監査であれば、CMC薬事やCMC技術者、さらには製造部門のPV経験者の同行が可能でしょう。承認書との乖離や相違という視点だけでなく、Critical Quality AttributesやCritical Process Parameters等の妥当性がPVと言う“actual operations”でどのように検証されているかといった視点でのチェック、言い換えれば、ICH等で求めている“Quality by Design”の本質が実製造にどのように反映されているかもチェックしたほうがいいんじゃないのか、なんて思う次第である。
 

第7章:安定性モニタリングでの規格外れは、これからも度々発生するんじゃないの? 漠然と以前同様の再バリデーションやったって意味ないんじゃないの?

バリデーション指針には、「再バリデーションを行う必要性、時期(タイミング)及び項目については、その設備、装置若しくはシステム、製造工程、洗浄作業又試験検査に係る製品の造頻度ほか、医薬に係る製品にあってはGMP省令第 11条の2第1項4号及び第 21条の2第1項4号 第1項4号の規定による安定性モニタリングの評価 、同令第 11 条の3第1項1号の規定による 製品品質の照査等の結果を踏まえ、製造業者が定めるものであること。」とあるが、必要に応じて(規格外れによる回収はその必要時では?)実施しなきゃダメですよ。でも、前回とまったく同じことをやっても意味ないですよ。同じことの繰り返しは、見逃した点をまた見逃すことに繋がりますからね。あくまで、回収等が発生した原因を究明し、前回のバリデーションそのものの適切性を評価することから始めて、評価ポイントや評価基準の妥当性も見直して実施しなきゃ意味が無いですからね。そこのところは、よーく考えて実施してくださいね。
 

第8章:PV、やり直すくらいだったら、最初からマジメにやったほうが得策だと思うんですが、

ここで言う“やり直し”は、バリデーション指針で言う「再バリデーション」のことではない。あくまで“見直し”としての“やり直し”である。そう、最初からのやり直しという意味である。既に承認を受けて出荷してしまったってか? それについては当局に相談してください。筆者が本話で言いたいことは、そうならないためにも、申請のためのPV(本来の予測的バリデーションだと思います)については、市販後の製造品の品質を保証し、安定供給できることを真の意味で検証して頂きたい(連続3回という回数の問題でなければ、ましてGMP要件と見せかけたセレモニーではない)ということにすぎない。米国FDAやEMAが“Continued Process Verification”を言い出した理由のひとつは、ここにあるんじゃないかと思いますよ*2、*3。これって、製造記録の照査や製品品質の照査に勝るとも劣らないレベルのものですよ。しかし、こんなにも大事な“Continued (Ongoing) Process Verification”にも拘らず、残念なことに、本邦では今般の「バリデーション指針」において、まったく触れられていない。
 

第9章:不可解なPVを解いてもらえません?

本話では、前33話「まぼろしのMBR」に続いて、最近のジェネリック医薬品に多発している品質問題にも関わると推測する、筆者のもうひとつの“concern”を記した。第1章でも述べたが、屁理屈と思うか、その通りと思うかは読者の皆さんの勝手である。が、安定な品質を確保した上での安定供給という命題、取りも直さず、患者さんへの安心、安全ということを、安定性試験(安定性モリタリング)との関係性も踏まえ、もう一度PVの意義を見直してほしいと願う。そして、「開発の集大成=PV=承認書=安定性試験=安定性モニタリング」の図式に秘められる不可解さ*9を解いてもらいたい。


では、また。See you next time on the WEB.

 

【徒然後記】

凶器と化した柿の種
前33話の「徒然後記」に『食パンよりもフランスパンが好き!』と題し、フランスパンの皮の部分が口蓋に刺さってケガしたことを記した。その際は軽い傷を負っただけで済んだ。実のところ、もっと恐ろしい(悍ましい)経験がある。あれは、大学1年の正月、友人宅で新年会をしていた際のことである。柿の種を食べた瞬間、鈍い音と共に激痛が頭を突き抜けた。なんと、柿の種が右上部の歯にあった虫歯の穴にすっぽりとはまり(虫歯の穴に楔を打ち込んだ状態を想像してください)、噛んだ衝撃で歯の側面が折れたのである。ぺっ、と吐き出したものの、出て来たのは折れた歯。物の見事に縦に割れていた。
正月明けに歯医者に行った。当時(1974年)は現在のように出来るだけ抜歯しないといった治療ではなく、医者から一言「抜きましょう」と言われ、その場で抜歯された。まだ18歳という若さであり、根本はシッカリしていた。医者も必死で抜こうとするがなかなか抜けない。やっとこさで抜いた時には、どれだけの時間がかっていたことか。病院を出る際、待合室にはかなり大勢の患者さんがいた(当時の歯科医院は予約制ではなく待合制であった)。
当日の晩、顔の右側は腫れあがり、鎮痛剤で必死に耐えた。人間の身体、その生命力は不思議なものである。抜歯の際に、歯の欠片の一部が歯茎内に残っていたのだろう。数日後、自然と歯茎から出て来た。もろ体外排出である。
ここで人生の教訓として大事なことを学んだ。「たかが柿の種と侮るなかれ!」、人間の歯など物ともしないほどに凶器と化すことだってある。
おーっ、いてーーーー!


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*1:詳細は、令和3年4月28日付け薬生監麻発0428第2号「医薬品及び部外の製造管理質基準に関する省令の一部改正について」の第4「バリデーション指針」を参照のこと。
ちなみに、本バリデーション指針での記述は以下の通り。
『(ウ)PVは、 原則として商業生産スケールで製品3ロットを繰り返し製造した結果に基づく又はそれと同等以上の手法により行うものであること。』
 
*2:米国FDA/Guidance for Industry「Process Validation: General Principles and Practices
https://www.fda.gov/media/71021/download
 
《注》筆者の記憶が正しければ、本ガイドラインはドラフトのままで、個別に関連ガイドラインが発出されているものの、本ガイドラインの最終版は発出されていない。
 
*4:平成15年6月3日(2003年)付 医薬審発第0603001号「安定性試験ガイドラインの改定について」~ICH Q1 (R2)の日本語版です。
https://www.pmda.go.jp/files/000156844.pdf
《注》本文中に抜粋した関連事項をガイドラインのまま転記する。
● 医療用医薬品のうちの新有効成分含有医薬品の(化学合成)原薬については、「正式な安定性試験(長期保存試験及び加速試験)は、3 ロット以上の基準ロットについて実施する。検体は、パイロットスケール以上で製造されたロットとし、生産ロットで適用される最終的な方法を反映する製造方法及び製造工程で製造されたものとする。安定性試験に使用するロットの品質は、実生産スケールで製造されるものの品質を反映するものである。」
● (化学合成原薬を用いた)製剤については、「長期保存試験及び加速試験は、3 ロット以上の基準ロットについて実施する。基準ロットは市販予定製剤と同一処方、同一容器施栓系の包装にする。基準ロットの製造工程は生産ロットで適用される方法を反映するものとし、市販予定製剤と同等な品質でかつ同じ品質規格を満たすものとなるようにする。3 ロットのうちの 2 ロットはパイロットプラントスケール以上とし、他の 1 ロットは、正当化できれば小規模でも差し支えない。可能ならば、製剤の各ロットは、異なる原薬ロットを使用して製造する。」
● 基準ロットとは、「正式な安定性試験に用いられる原薬又は製剤のロットであり、それらを用いて実施される安定性試験成績は、リテスト期間又は有効期間を設定する目的で、承認申請の添付資料として提出される。原薬の基準となるロットは、パイロットスケールロット以上でなくてはならない。製剤の場合、3ロットのうち、2ロットはパイロットスケールロット以上で、1ロットは重要な製造工程が反映されているならば小規模でも差し支えない。勿論、基準ロットは、生産スケールロットでもよい。」
 
*5:平成3年2月15日付 薬審43号「医薬品の製造(輸入)承認申請に際して添付すべき安定性試験成績の取扱いについて」~前注釈のICH Q1 (R2)以前の通知で、ジェネリック医薬品の申請用安定性試験も本通知に基づいて実施されている。
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta7156&dataType=1&pageNo=1
 
*6:詳細は、日本ジェネリック製薬協会(JGA)による「安定性試験」のウェブサイト(2019.02.01付け)を参照のこと。
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/column/09.html
 
*7:ジェネリック医薬品そのものを悪く言うつもりはないが、先発品と製造所が違う(当然、製造法やスケールは異なる)だけでなく、原薬および添加剤さえも違うサプライヤーのものを使用している、まったくの別製品である。ここまで違っているにも拘らず、申請用安定性試験については長期保存試験ではなく加速試験のみで良いと言うのは、科学的に考えても疑問でしかない。
 
*8:ジェネリック医薬品の安定性モニタリング外れに起因する回収からの欠品や出荷調整について、規制当局としてジェネリック医薬品の使用促進を謳い、安定供給をメーカーに求めるのであれば、科学的考察の基に、現行運用が適切か否かを考えるべきなのではないだろうか。筆者、規制当局に物申す立場にないが、このままどうにかなるとは思えない
 
*9:科学的な同質性を検証し接点を見いださない限り、使用する検体はすべて異なっている。

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