新・医薬品品質保証こぼれ話【第12話】

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

データの蓄積と経験の継承

“データの蓄積”と“経験の継承”。この二つは医薬品の品質保証を的確に推進する上においてとても重要です。日常、医薬品の生産活動を進める中で様々なデータが発生します。製造や品質管理に関する記録はその代表であり、長い年月の間に蓄積されるデータの量は膨大となり、同時に、日々の製造や試験検査業務の中では数多の出来事を経験します。こういったデータや経験はその企業・工場固有の貴重な財産であり、様々な局面で活用できる可能性を秘めています。日常の業務は必ずしもすべてが順調に運ぶわけではなく、むしろ、工程トラブルや規格外の試験結果など様々な負の経験も少なくありません。しかしながら、こういった知見や経験を蓄積し継承することにより、より高いレベルの活動、営みに繋げられることも事実です。ただ、問題はこういったデータや経験をいかに整理・蓄積し、継承し、また、必要なときに迅速に引き出せるように保存するかという点です。

日々に発生するデータを蓄積することは、昨今の情報技術の進展により比較的容易になったと思われますが、経験の継承に関しては、各企業それぞれに事情が異なるのではないでしょうか。“経験”の多くは基本的には個人に帰属することから、個々の貴重な経験を整理・保存し、後進に継承するといったことが的確に行われている企業はそれほど多くないのではないでしょうか。ちなみに、“経験の多くが基本的には個人に帰属する”という意味は、例えば、ある一つの工程トラブルが発生した場合、その一連の対応から得られる教訓など受け止め方は人それぞれであり、そういった教訓のようなものも含めて“経験”と考えると、経験は基本的に個人に帰属すると言うことができます。この個々人の多様な経験や教訓を共有し継承することは、以後の問題発生時などの対応に大変有効です。

蓄積されたデータや経験は、上記のように、以後の日常業務をより適正に推進するための参考となり有益であることは勿論ですが、もっと大事なことは、次代を担う若い層にそれらを的確に引き継ぎ、彼らがそのデータや経験を自分のものとして活用できるような流れを作り上げることです。それにより、組織として同じ失敗を繰り返さず、より高度な業務の進め方に発展させることも期待でき、いわゆるBCP(Business Continuity Planning:事業継続計画)の観点からも重要と思われます。このことは企業だけでなく、公的な機関を含めあらゆる組織において言えることですが、そのためには、データだけでなく経験も整理しデータベース化し、いつでも引き出し参照できる状態にしておくことが望まれます。

上記のような考えに基づきデータや経験をデータベース化する場合、先ず想起されるのはこれらを医薬品品質システム(PQS)に組み込むことですが、特に、“製造・品質・調達などに際するトラブルの経験に個々人の教訓を付加した情報”を瞬時に引き出し参照できる形にしておくと、関連する重大な問題が発生した場合の原因究明や改善対策に有益であり、ひいては、医薬品安定供給の確保にも資すると考えられます。また、そうすることでPQS自体がより有用性の高いシステムとなることも期待できるでしょう。具体的には、例えば、工程における原材料の取り違え、中間製剤や打錠時の品質問題、製剤への異物混入、試験に際するOOS(規格外試験結果)の発生、さらには原材料の調達に関するトラブル、などなど、こういった事案への対応から得た教訓を含む経験を整理し、データベース化し、必要時に迅速に引き出すことができれば、類似した問題への対処に必ず役立つはずです。

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